□朽ちぬ想いがそこにある
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 久方振りに会った姉上は、至極美しくなっていた。以前のような明るく快活な笑い声を上げそうにはないが、たおやかな仕種には弟である私すら見惚れそうになるものがある。懐の短刀に手を添え、背を伸ばす姿には、ある種気品が満ち溢れていて。

「本当に久しぶりですね、大八ちゃん。阿梅姉様たちはお元気ですか」
「はい。大層あぐり姉に会いたがっておりました」
「まあ、それは嬉しい」

 にっこりと笑む様子からは、かつてじゃじゃ馬などと呼び称されていたことなど見当もつくまい。

「わたくしも、一度は仙台に行ってみたいものです」
「是非おいでください。人も優しく、美しい街です」
「それは良いですね」
 話している間も、姉上は頻りに懐刀を撫でている。旦那殿から賜ったものだろうか、と私は何とは無しに考えを巡らした。
「姉上、こちらでの生活はいかがですか」
「元気にやっていますよ。旦那様もお優しい方です」
「それは重畳。その懐刀も、賜ったもので?」
「ああ、これは―――」
 言い止した姉上は、口許に柔らかく笑みを湛えて目を伏せる。まるでその護身刀を、愛おしむかのような様子に、私は思わずどきりとした。

「これは、六の形見なのですよ」

 思いがけない名に、私は目をしばたく。姉上がこの上ない愛を籠めて呼んだ名、それは、我等が父に側近く仕えていた、忠臣のものだ。
「あね、うえ……、」
「あの方が唯一わたくしに遺してくれたものです。いつでもこの刀が、わたくしの身を護っていてくれているような気がしているのです」
 嬉しげに言う姉上は、もう一度ゆっくりと懐刀を撫ぜる。私は、嗚呼、と心中大きな溜め息をついた。












朽ちぬ想いがそこにある
(男は、いまでも姉上を捉えて離さない)

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