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御礼ss*大人ハリーとハーマイオニー






 窓から差し込んだ光を受けて、ハーマイオニーのドレスはきらきらと輝いていた。栗色のロングヘアーをひとつにまとめ、いつもより念入りに化粧した彼女は、ノック音に一瞬遅れて部屋に入ってきたハリーを見て、微笑んだ。
「あら、ハリー」
「新郎じゃなくてごめんよ。彼は緊張しちゃってるみたいで、代わりに僕が来たんだ」
「もう、困った人ね。こんな日にまであなたの手をわずらわせるんだから」
 呆れたように息をついた彼女の言葉に、しかし棘はない。ハリーも肩を竦めながら、彼女に歩み寄った。
「でも、役得かな。誰よりも先に、君の花嫁姿を見られた」
 ハリーはハーマイオニーの足元にひざまずき、
「綺麗だね、ハーマイオニー。これ、僕とジニーから」
 薄オレンジ色のコサージュを差し出す。ハーマイオニーはそれを白い手袋を嵌めた両手で受け取り、右耳の横へ挿した。彼女の双眸は、少しだけ潤んでいる。
「すてき…ありがとう、ハリー」
「大切な友達の結婚式だもの、このくらいしなくちゃ」
 優しく目を細めて、ハリーはハーマイオニーの姿を眺めた。

 ハーマイオニーとロンの結婚式は、ウィーズリー家の他のきょうだいたちの時と同様、自宅を飾り立てて行われる。毎年クリスマスにはみんなで集まってはいるものの、遠方で暮らしているチャーリーや、普段は公務で忙しい魔法省で働く友人たちが一堂に会するとあって、みんな準備に大忙しだ。
 そんな喧騒を遠くに聞きながら、ハーマイオニーはハリーに椅子を勧めて、ふつと笑みを零した。
「わたし、あなたのことを好きになろうとしていた時期があったのよ」
 思いがけない告白に、ハリーはせわしなく瞬きをして、首を傾げた。
「そうだったの? それ、ロンには?」
「言ってないわ。言う必要、ないもの」
「その気が今後も変わらないことを祈ってるよ。恨まれたら嫌だもの」
「ふふ、あの人しつこいものねえ」
 二人が付き合いはじめた時から、ロンのやきもち妬きはひどくなった。もっとも、ハーマイオニーは満更でもないようだし、ハリーもこればっかりは仕方ないと諦観している。
「ね、ハーマイオニー。何で僕を好きになろうと?」
 これはあくまで好奇心だけど、と前置きしてハリーがそう尋ねる。ハーマイオニーは少し考えるそぶりを見せた。
「そうね、大した理由なんてなかったのよ。ただ、単純にロンよりあなたの方が性格が合うような気がしたの。一緒にいてちっとも苦じゃないでしょ」
 言い合いばかりしていたロンとは違って、ハリーとハーマイオニーの関係はいつだって穏やかなものだった。些細な衝突はあれど、喧嘩らしい喧嘩をしたこともない。互いに互いを敬い、尊重し合っていたからだ。
「ありがとう。僕は君をそういう目で見たことはなかったなあ」
「やだ、ハリー。ひどいわ。そういうことって、思っていても口にしないものよ」
 記憶を辿るように呟くハリーに、ハーマイオニーは殊更顔をしかめて見せる。ハリーはそんな彼女の反応に慌てる様子も見せず、穏やかな声音でこたえた。
「ごめん。……僕にとって君はね、妹みたいな存在。だから、恋人よりももっと親しく感じてた」
「喜んで良いのかしら」
「もちろんだよ」
「ありがとう。……でも、妹というのは捨て置けないわね。わたしだってあなたのこと、弟みたいって思ってたのよ」
 胸を張るハーマイオニーは、彼女には珍しく悪戯っぽい表情をつくってみせる。ハリーは思わず吹き出してしまった。
「ええー、そりゃあないよ」
「そうかしら。でも実際、この先はわたしが姉になるわけでしょ」
「ついでにロンもね」
 親友たちが結婚すること以上に、その二人が、自分の義理のきょうだいになるということがハリーには未だに不思議に思えてならない。けれどもそれは、嬉しいことに違いなかった。
「…おめでとう、ハーマイオニー」
 だから、ハリーの口から出た言葉は、彼の偽らざる本心である。
「君がいなくちゃ、いまの僕はなかった。君は僕にとって、かけがえのない存在だ」
 そっと美しい親友の手を取り言うと、彼女はなぜか、恨めしい顔をする。
「ハリー、わたしを泣かせるつもりね」
 その声は、少し震えていた。
「人聞きの悪い。君の涙腺が緩いだけだろう」
 僕は無罪だよ、と言わんばかりに肩をすくめてみせ、ハリーは続ける。
「僕はいつでも君の味方さ」
「ロンとわたしが喧嘩しても?」
「そりゃ、もちろん君の味方だよ。義姉さん」
「やだ、やめてったら。なんだか恥ずかしいわ、それ」
 どの言葉も本心だというのに、ハーマイオニーには冗談めかして聞こえてしまうらしい。ハリーは少し困ったように眉尻を下げた。
「そうかなあ。僕はうれしいよ。たった一人だった僕に、きょうだいができた」
「ハリー……。よかった、あなたと出会えて、ほんとうによかった」
 感極まったように両手を広げた親友をそっとハグして、ハリーは微笑んだ。
「ありがとう、僕もさ。幸せになってね、ハーマイオニー」





Bliss


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