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□甘い手【一柳 昴】
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あれ…何の夢見てたんだろう。
その記憶はすでに曖昧になり始めていたけれど――
薄暗い部屋の中に、なんとなく悲しい余韻だけが残っている。
ホテルのスイートルームみたいな部屋の、大きくてふわふわのベッドの中で。
私は夢の余韻を断ち切ろうと、隣にいる昴さんの存在を確かめた。
4日ぶりに家に帰ってきた昴さんは、よほど疲れているのか規則正しい寝息をたててぐっすりと眠っている。
カーテンを閉め忘れていた大きな窓から月の明かりが差し込んで、昴さんの顔に長い睫毛の影を落とす。
月の光って、こんなに明るかったんだ――。
吸い寄せられるように、私は昴さんの頬に手を伸ばした。
頬をやさしくなで、額にかかった前髪をなで上げる。
こんなにぐっすり眠ってるなんて、よっぽど疲れてるんだな…。
昴さんは、絶対に仕事の愚痴を言ったり弱音を吐いたりしないけど――
SPという仕事は、そばで見ている以上に精神的にも肉体的にも大変な仕事なんだと思う。
それでも、昴さんはいつも余裕の笑みで私を安心させ、守ってくれる。
強くて優しい、私の、大切な人。
私は、目の前にある昴さんの裸の胸に、そっと人差し指をあてた。
そして、ゆっくりとその指を滑らせる。
「 ス キ 」
なぞるように書いたその二文字。
優しく、でも、しっかりと。
その胸に、刻み付けるように――。