愛と憎
□8話
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前を行く犬夜叉の匂いが風に乗って飛んでくる。
やっぱり妖気は欠片も感じられなくて、ただの男の子の匂い。
彼はもしかして、もしかすると…
期待に胸踊らせ呼びかける。
振り返った彼の瞳にさっきの哀しい瞳が重なる。期待に膨らんだ胸が、風船の空気を抜くように萎んだ。
「甘茶蔓…」
「甘茶蔓がなに」
あたしの呟きは、耳のいい彼には聞こえたらしい。
「あー……っと。甘茶蔓ってお茶になるんだよね。効用って何だっけ?」
「かぜ薬だろ」
そんなことも知らないのかと言わんばかりに顔をしかめ、楓に教わらなかったのかと言う。
「あー…そうだったそうだった」
忘れてた、と笑ってみせる。
真っ赤な嘘。昨日と今朝、二度も説明されたんだもの。さすがに覚えてる。
「それにしても犬夜叉、よく知ってるのね。誰に教わったの?」
「さぁな。忘れた」
そう言って長い綺麗な銀髪を翻した彼の瞳に映っていたのは、哀しみと、それ以外の何か。