夏目友人帳 短編

□喉元の圧迫感
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『お兄ちゃん、私…今日も生きてるよ』


無機質な世界

色を無くした世界

私の大切な人達はみーんないなくなっちゃった

私を残して、いなくなっちゃった


いるのは妖怪と呼ばれるモノ達だけ


友達?


そんなモノいないよ
そんなモノ、いらないよ

私には見えるの

他の人には見えない、妖怪と呼ばれるモノ達が

でも、ソレは確かに存在しているのに他の人には見えないから見える人を可笑しいと嘲笑うの


確かにいるのに、触れるのに


聞こえてくるのはクスクスと私を馬鹿にする笑い声と煩いくらいの罵声

毎日毎日泣いてばかりだった
ヒトなんて、大嫌いだった


だけどね?
私にはお兄ちゃんがいたから


「兄ちゃんはお前を信じるよ」


そう言って笑ってくれたお兄ちゃんがいたから、私は他のヒトなんてどうでも良かったの

お兄ちゃんは見えないけど、私の話をいつもちゃんと聞いてくれた


ヒトが怖い、妖が怖い


そう言って泣いている私にヘッドフォンをくれたの


「兄ちゃんのお気に入りだからな!」


触らせてもくれなかったくせにガチャ、って耳にはまる音がした

女の子が着けるにしてはゴツすぎるヘッドフォン

だけどお兄ちゃんがくれたものだから不満なんて何もなかった


「いつかお前と同じような人に会える

だから…、お前の見える力を嫌いになったらいけないよ

自分を認めてあげられなきゃ、他人がお前を認める訳がないんだから」


お兄ちゃんはいつもそう言ってた

だけど私はお兄ちゃんがいたから、他人なんてどうでも良かったのに


なんで、なんでいなくなっちゃったの?


『お兄ちゃん、あのね…私のクラスに夏目貴志くん、ってヒトが来たの

…あのヒト、見えるみたい

お兄ちゃんの言った通りだったね
私と同じ、見えるヒト


――‥でも、それだけ、』


そう、それだけ
それ以上でもそれ以下でもない


ただ、それだけ




 
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