BASARA 短編

□泣かないで
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「ほら、まーた眉間に皺がよってる」

『…別にいいでしょ、それくらい』

「あとになっちゃうよ?」


子供のように拗ねている私にしょうがないなあ、と佐助は笑う



「どうしたの、星契ちゃん」

『……』


仕事で嫌なことがあったとか、ちょっと上手くいかなかったとか…


そんな些細なことで全部を投げ出したくなって、泣かないようにぐっと堪える私を佐助はふわりと壊れ物を扱うように優しく、優しく抱き締めてくれる


…目の前の佐助はいつだって優しくて私の味方になってくれる


「今日の晩ご飯は何にしようかなあ
いつも頑張ってる星契ちゃんの好物でも作ろうかな♪」


ぎゅっと抱き締めたまま何も聞かない佐助の体にぽたり、ぽたりと涙が零れる


「…俺の大切な人はいつも頑張りすぎるから、頑張ってる姿は好きだけど時々心配にもなるんだよ


俺にとって一番大事なのは星契なの


だからね、星契が笑えないなら全部投げ出してもいいよ


俺がいるから
どんな星契でも俺は好きだよ」

『…、…っ』


ついには嗚咽まで出てきて、ああ、もう本当にどうしようもない、とまた自己嫌悪



佐助はいつだって変わらない

仕事だって軽々とこなしてしまうし、私がどんなに取り乱していても変わらない

私が何をしても大丈夫だよ、って笑う


そんなところが好きなのに、そんな自分には出来そうもないことを簡単にやってのける佐助に嫉妬もする


佐助のそばにいると自分の駄目なところが嫌でも表に出てくる



佐助が羨ましくて、妬ましい…ーー



…そんなこと、思う自分がまた、いやだ



「ーーほら、また余計なこと考えてる」


さっきよりずっと困ったように笑う佐助


『だって…っ!』

「俺にだって出来ないことは沢山あるよ
星契にしか出来ないことも沢山ある

…俺を幸せに出来るのは星契だけなんだよ?


星契が泣くと俺も悲しい

星契が泣く原因全てを無くしたいよ
…でも、それはきっと嫌がるでしょ?


星契は自分が思っているよりずっと、ずっと強いよ」


頬にあたたかい手のひらが添えられる
少しだけ、ささくれの多い佐助の手

目の前で泣き笑いのような顔をする佐助は見たことがない


いつだって笑ってて

いつだって何て事ない顔でやってのけて

いつだって、


いつだって、私を、見てくれていた


『さすけ…』

「あんまり、情けない顔は見せたくないんだ

星契の前ではいつだってカッコよくいたいでしょ?」


いたずらに笑う佐助はあの時もね、この時も、と沢山の話をしてくれた



ああ、なんて、愛おしいんだろう



「ねえ、星契
ーー…もっと俺を頼ってよ

星契はなんでも1人で頑張っちゃうからさ…たまにでいいんだ

たまに、思い出した時にでも俺を呼んでよ

1人じゃないんだよ
いつだって、どんな時だって俺がそばにいるよ

星契が頑張ってるのは俺が一番知ってる


ね、星契
前を向くことが辛い時もある

ただ今を過ごしていることだって辛く感じることもある

でも、…それでいいんじゃないかな

辛かったり、苦しかったり、寂しかったり…それは全部星契が頑張ってるからだよ
一生懸命だからだよ

だからね、それでいいんだよ

今のままでいいんだよ」



未だに涙の止まらない私を抱き締め、背中をさする佐助の顔は見えない

いつもより少し優しく、掠れた声がゆっくりと頭の中でとけていく

今だけは、今だけはこのあたたかな腕の中で泣こう

そして…、明日からまた前を向こう



ゆっくりでいい

立ち止まっていい

振り返っていい

きっとそこにはいつだって君がいてくれる







あとがき

 
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