BASARA 短編

□その微笑みを
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ひとり、縁側で盃を傾ける

嫌味なほど美しい月にふつふつと憎しみが浮かぶ



「ーー…何やら怖い顔をしているな」

『!?……幸村様』



幸村様は着流し姿で、同じく盃と酒瓶を持ちながら歩いて来た


「ひとりでそのように辛い顔をして傾ける酒は酷く味気なかろう」

『幸村様には、関係のないことです』

「…そうか、それは寂しいことを言う」


スッと痛ましげな視線が肩口から背に向けて流れる

そこにはまだ新しい刀傷
じわりと、血が滲むのを感じる


「そなたは我が妻でありながら戦に立つ
…その姿は酷く心配になるが、…それもまた美しい

だが…しかし、そのように傷を負う姿を見ると心がこんなにも痛むのだな…」


泣きそうな顔の幸村様はソッと私の手を握る

お会いした当初は日々、破廉恥!と叫ばれない日は無かったというのに



「ーー…星契
泣きたい時は泣けば良い

誰もそれを責めはしない

誰にも見られたくないのなら…こうして、某が覆い隠してみせようぞ」


音もなく流れる涙は幸村様の着流しへと吸い込まれていく


『……痛い、のです

大切な民をも守れないこの弱さが、どうしようもなく情け無く…っ

目の前で民を失うことが胸を抉られるほどに痛いのです…!

力の無い己が憎くてたまらない…っ!!!』


「ーー…そうか」


グッと握りしめた拳からは血が伝い、傷口も再び熱を持ち始める

己の血がじわりじわりと幸村様の着流しを汚していく



どうして守れない

どうして救えない

どうして…


『私は、こんなにも…!…っ、弱い!!』

「……」


何も言わず、幸村様はただただ抱き締める
ぽたぽたと血や涙が辺りを濡らす


「……某は、沢山の仲間や友を失った
日々、不甲斐ない己が憎かった

だからこそ……強くなるしかないのだ

守りたいものを守り、救いたいものを救う為には、…強くなるしかない


ーー強くなれ、星契
大切なものを何一つこぼさぬように


…生きて、某の元へ帰って来れるように」



パッと顔を上げた幸村様の頬には一筋の涙が伝っていた


『ゆきむら、さま…』

「生きていれば成せる事がある
…今からでも遅いということはなかろう」






一緒に背負う、約束をした






共に強くなろうぞ、
そう言って幸村様は笑った





 
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