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□桜に綴る
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今の私は不自然な笑顔のまま
桜の花びらたち2008PVを撮った。
美術室での二人だけの芝居。
フルのPVを見た時、安心した。
大丈夫、私はうまく演じられてる。
私はうまく笑えてる。
でも、優子を見る表情はやけにリアルに感じられた。
美術の授業シーンのともーみと優子が絡む場面。
それを見る私の切ない表情は紛れも無いホントの私。
石膏像にキスをする優子を見る表情も、ホントの私。
何が一番緊張したかって。
優子がキスをした石膏像に私がキスをするシーン。
間接キス。
心臓の動きが速くなる。
後ろで見ている優子はとても真剣で、それが更に鼓動を加速させる。
たとえ芝居でも間接キスをした事は事実であって、しばらく優子を見る事が出来なかった。
「やー間接キッスだよあっちゃん、間接キッス」
美術室での休憩時間、例のシーンを終えたとき優子が声をかけてきた。
「…うん」
窓の外をみて呟くように答える。
「やべぇー!恥ずかしいわ私ぃー!!」
両頬を両手で押さえながら叫ぶ。
そうやって笑う優子を見て、何だか無性に胸が痛くなる。
勝手に想ってるだけなのに、そうなる自分に小さく溜息を吐く。
PVの冒頭と同じように、机に隣同士で座る。
二人共、窓の向こうの空を見たまま。
「このPVさぁ、リアルだと思わない?」
少しの沈黙の後、空を見続けたまま訊いてきた優子の言葉に、同じように空を見続けたままの私の身体は動けないような感覚に襲われた。
あっちゃん、と真剣な声で呼ぶ優子の顔は私に向けられていた。
どうして優子がそう思うの?
なんて頭を巡らせたけど。
そんな声で呼ばれて、そんな表情されたらイヤでもわかる。
ああ、そうか。
私の気持ちに気付いてるんだね、優子。
「思うよ、優子」
優子の目を見る。
あの時、バスの中で言われた言葉。
あっちゃんはさぁ、私の事が好きなんだよねぇ
もう隠し切れない。
もう、迷わない。
「私は優子が好き」
溢れ出しそうな想いを吐き出した。
いつから芽生えたのか忘れてしまったこの気持ち。
本物なんだと気付くのにそう時間はかからなかった。
「知ってたよ、ずっと前から」
小さく笑った優子は窓際に立って、いつの間にか夕方になっている空を見た。
その小さな後ろ姿は鮮やかに夕焼けで染められている。
「PVの私と同じ。ずっと気付かないふりしてた」
ごめん、と告げてくれた優子の本心。
私が優子との接し方に戸惑う事のないように。
私の気持ちに気付かないふりをしていつもと変わらずに接してくれていた優子は優しすぎる。
そんな優子だから私は。
「やっと言えた」
今度は自然に笑えた。
「ありがとう」
優子が笑ってくれた。
私はそれだけで嬉しいんだよ、優子