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□夏と空と自転車と
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青色の深くに沈み込んで見付けたのは、いつかの自分







雲一つない蒼い空に、うるさいくらいに鳴きしきる蝉の声が響き渡る暑い夏の日。
溢れ出ないように必死で堰止めておいたはずの感情がついに爆発してエースを激しく責め立てた副部長と、次々と浴びせられる辛辣な言葉に胸が引き裂かれるような思いのエース。

どちらの言い分が正しいのか、自転車競争で決めるという意味不明な展開が事の流れで始まったが、最後は全員に笑顔が浮かんで、そしてエースと副部長が笑顔を見せ合って一見落着。
どちらが正しくてどちらが間違いかなんて、そもそも初めから意味なんてあってないようなものなのに。



「もう〜空気読みなよ〜」
全員でゴールしようと後ろを走ってくる仲間をみんなで待っていたのに、猛スピードで仲間の間を縫ってドリフトまで決めてゴールしたメンバーの一人に競争終わりにブーイングを浴びせる。

「ごめんごめんつい本気になっちゃって」
そう片手を顔前に立てて謝るメンバーを見て部長のみなみは苦笑を漏らした。
エース・敦子の仲間と弾けるような笑顔にみなみは安堵する。
ふと気付けば、いつもその中心で一際元気に笑う人間がいない。
周りを見渡しても見当たらない姿にみなみは首を傾げる。
すると、敦子もそれに気付いたのかみなみと目が合う。

私が探してくる。

そう視線で投げ掛けて駆け出していった小さくも大きい信頼する部長の背中に、敦子は少しだけ、切なげな微笑を浮かべた。
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