Triangle
□Triangle
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変わらないものなどないということをただ知っておきたかっただけ
楽屋のソファ。
自分の特等席だと言わんばかりにみなみの膝上ですやすやと眠る敦子に優子は緩やかに微笑む。
みなみはみなみで愛読のONE PIECEに夢中。
そんな光景に見とれていれば向かいの席からは呆れたような声がして優子はそちらに向いた。
「あそこまで自然にやられるともう何も言えないよねぇ」
少し間延びした声を発した陽菜に優子は小さく苦笑を漏らす。
敦子がその頭を預けるのは決まってみなみの膝で、敦子の眠た気な顔に気付けばみなみは、ぽん、と自分の膝を叩いて敦子を迎える。
そんな見慣れた二人に再び目をやって変わらず微笑を浮かべる優子の横顔を陽菜は見詰める。
「わかんない」
ただ一言、陽菜の口から飛び出したのは本心だった。
「何が?」
それに反応した優子が陽菜に向いて小首を傾げれば、陽菜はもう一度同じ言葉を繰り返した。
「わかんない。笑ってる優子が」
心なし不機嫌になっている陽菜の表情。
それに自分は陽菜に何かしただろうかと優子は思考を巡らす。
だけど心当たりがないから優子の頭上には?がびっしり。
「いや…何がでしょう小嶋さん…」
少し顔が引き攣りながら訊く優子に陽菜は頬杖を付きながら大きく溜息を吐いた。
あれを見てどうして優しく笑っていられるのかと陽菜は理解に苦しむ。
好きな相手が自分以外の人間の膝枕で眠る。
嫉妬の少しも生まれるものなんじゃないのか。
ましてや、その人間が自分が好きな相手を好きという事を知っていれば尚更だというのに。
「小ジャイアンじゃなかったの?」
「へ?」
久しいかつての自分のニックネーム、そして陽菜らしくない真剣な口調と表情に優子は間抜けな声しか出なかった。
陽菜の意図をわかっているのかいないのかキョトンとした顔の優子に、陽菜はこれ以上自分の思ってる事を口にしてやるものかと今度は苛付き混じりに溜息を落とした。
「ジュース買ってくる」
私のもおねがーい小嶋さーん!
席を立てば両手を絡めて乞うてくる優子をシカトして陽菜は楽屋を出ていった。
「何処に行っちゃったんだろホント…」
陽菜が楽屋の扉を閉めたのを確認して優子は小さく息を吐いた。
そうして呟いたのは陽菜の台詞に思い当たる節があるから、優子はその上で素知らぬふりをした。
陽菜が優子の気持ちに薄々気付いている事に優子自身が気付いたのは、陽菜と話していても視線はただ一人を探していたから。
だけど小ジャイアンなんて。
そんな名すら忘れていた。
そして、いつしか独り歩きしているそれを今の自分じゃ多分見付けられそうもないと優子は思う。
「ま、わかってくれなくてもいいけどさ」
だって本当に微笑ましいのだから仕方がない。
優子はもう一度、二人を見て静かに笑んだあと、雑誌に目を落とした。