小説

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高二の春。
桜はとっくに散り、代わりに黄砂が舞う屋上に私はしぶとく居座っていた。
と言うのも、黄砂から避難しようとした時にタイミング悪く、私の友達が男子に連れて行かれてしまったのだ。

私は、教室に一人で戻るのもなんとなく怠いので、弁当を片付けて友達の帰りを待つ事にした。


「あれ? もしかして東雲?」


何もする事が無くて手持ちぶさたに足をぶらぶらしていると、声が掛かった。


「ああ、東雲だ。よかった、探してたんだ」


私は足を地につけ、背筋をピンとした。
声で既に相手は認識し終わっている。
細身の体に、染めた事の無いと思われる漆黒の髪、そして屈託無く笑う目。

「こんにちは、先輩」
「こんにちは」

隣りいいかな、と先輩が言うので、私は広げたままの相方の弁当を片付け、座れるスペースを作った。
先輩はゆっくりと私の隣りに座る。
体が触れる事のないように、ベンチの端に。
それなのに、私の心臓は普通よりも格段に早く音を刻んでいるのだ。

不思議な人だ、この人は。
無関心無干渉無表情無感動を徹してきた私なんかを、頼りにしてくれる唯一の人。
私の氷のように冷えた(友達談)心を少しながらも暖めてくれる、尊敬出来る人。

「ちょっと東雲に頼みたい事があるんだけど、いいかな?」

ふ、と目が合う。
黒くて、深くて、吸い込まれそうになる目。
一度魅せられたら最後、離れるなんて出来るはずが無い。
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