その他
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日に日に霧が濃くなっていく稲羽。
霧の濃さと比例するかのように町の様子がおかしくなってきている。そんな様子に不安の声も聴こえてくる。
……何かを変えようとすれば何人かの人はこういった反応を示す。わからないことへの不安。慣れないことへの不満。……慣れてしまえば何も無いように過ごせるクセに。
『当たり前』の危険性。微量ながらも毒を含む行為も『当たり前』となってしまうと行為をやめることが難しくなる。まして、その行為がもたらす利潤を考えると人は楽な方へと転がっていく。故に人は自動車を捨てない。工業化を止めない。……おっと、話がズレてしまったね。
つまり、この町の霧も"見たくもない現実を見なくて済む"等といった利潤の為に取り払われずに今も残っている。
……最も、これは人の総意ではなく、彼個人の意見でしかないが……。
おかしな話だ。つい数ヶ月前までお友達とともに連続殺人事件の犯人を馬鹿みたいに必死になって追い掛けていた彼が、今では僕の側から離れようとしないのだ。
最初は気持ち悪くて避けようとしたり追い返したりしていたけれど、霧が出てて、町が少しずつおかしくなる中で、彼もおかしくなっていっていた。
頼むから人の家で自殺を図るのだけはやめて欲しい。
……まぁ、そんなこともあって、彼は僕のそばから離れなくなってしまっている。
そばに居たって利益なんてないはずなのに。
何度聞いたって、僕が霧の中に消えてしまうのが嫌だからなんてわけのわからないことを言っている。
そんな彼が僕につきまとうようになって、しばらくが経った。
捜査に進展があった。
消したと思っていた証拠…あの不倫女の衣服から俺の指紋が出たらしい。
あの時は護衛任務についていたからとかなんとかと誤魔化しては見たが、少し言い訳苦しかった。
今、署内に僕の味方も居ない。
だが、なぜ?あの証拠は確かに消したはず…
どこからそのことを聞いたのか。
家に帰ると彼が今にも死んでしまうのではないかと思うほど真っ白な顔をしていた。
……って、そうか、彼の後輩に探偵王子くんがいたんだっけ…。
君が心配するようなことはないよ。こっちはやましいことなんてないんだから、堂々と無実を主張してればいいんだよ。
と、嘘の言葉で自分を塗り固めた。
気づかない内に、彼がそばにいる事は『当たり前』になっていた。
毒が見えなくなってしまっていた。
彼がそばにいることでどんな毒があるのかを、僕は理解することをやめてしまっていた。
ズブズブと底の無い沼に沈みゆくように。
毒に気がついた時には、もう。
翌朝見つかった死体。電柱に逆さまにして吊るされていた彼は自ら命を絶った。
自分が事件の犯人だという内容の遺書を残して。
そばに居るのが『当たり前』になってしまった。
気づいた時には僕はもう。
君という毒に侵されてしまっていた。
【毒の霧】
あぁ、君のいない世界のなんと意味の無いものか。
君という名の毒に侵されきった体しか僕に残されていないとは。