その他
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僕には、"僕ではない僕"の記憶がある。
その記憶の中の僕は、特に大した取り柄もなく、元エリートでもない。
ただの新米刑事の"足立保"という男だった。今と少し…いや、かなり風貌も違う"僕"は、今の僕と同じく堂島さんとコンビを組んで、例の不可解な事件を、犯人としてではなく、1人の刑事として追っていた。
テレビの中の世界の存在を知らない"僕"は、犯人が誰なのか全くわからなかった。
見当もつかず、ただ意味もなく時間だけが過ぎていった。
…暮れも差し迫った、ある日。
噂のマヨナカテレビに、それは映った。
──あんな女、死んだ方が世の中のためなのよ!
──あの時助けてもらえて、俺たちはお前に感謝してるんだぜ?リーダーさん。
お仲間ごっこも楽しかったけどよぉ。
飽きたから、もう要らねぇや。
それはあまりにも理不尽で、あまりにも幼稚とも取れる殺意だった。
…そのあと彼らの間で…テレビの中で何があったのかは知らない。
翌朝、2人はあの子達と共に警察へ自首をしに来た。
1年近くそばに居た仲間の犯行。
なぜ気づけなかったのか。もっといい答えはなかったのか。
彼は都会へ帰るその日までずっと言い続けた。
彼の気持ちも理解できる。
"僕"も同じ気持ちだったからだ。
今の僕より正義感の強かった"僕"は、強く望んでしまった。
彼らの絆が切れることの無い世界をと
そこで"僕"の記憶は途切れ、代わりに今の僕の記憶が続いている。
"僕"の記憶は同じ年を繰り返す内にどんどんと掠れてしまっているが。
それでも、あの子達の絆を羨ましくも、守りたいと思った"僕"は、きっとどこかの2011年にいたんだ。
"僕"が多くのものと引替えてまで君にあげた今なんだから。
ほら、ここまで来なよ。
最後まで僕が守ったものを見せてよ。
END
2018/03/05 執筆
2018/09/04 投稿