その他

□時を戻し君を想う
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その日はいつもと同じように起きた。
いつもと同じようにひとりで朝ごはんを食べて。
いつもと同じように遅刻しないように家を出た。

何も特別なことはしていない。

何も悪いことはしていない。

昨日までの毎日が今日もくり返しやってくる。



「おはよう、今日も早いな」
「あ、悠くん。おっはよー」

登校途中に行きあった友人。鳴上悠。
去年の四月に転校してきた生徒で、とにかく変わった奴というのが第一印象だった。…変わってるって言うのは見た目の話ではない。
オーラ?うん。彼の放つ雰囲気はどこか普通と離れているように思えた。ただそれは第一印象の話で、去年の夏にひょんな事から仲良くなった今となっては…面白い奴っていう認識で落ち着いている。


自転車に乗っていた彼は「後ろに乗る?」と言ってくれたけど断った。

「変な噂になったらヤダよ。そんな事よりこの間言ってた夏祭りの件、考えてくれた?」




「お前ら今日も遅刻ギリギリか。大方話に夢中になってたってところか?」
教室に着くと隣の席のもう一人の友人が声をかけてきた。
彼は堂島遼太郎。真面目な性格の…まぁ、とにかくいい奴だ。何かと私や悠の面倒を見てくれる。…同い年のはずなのに、なんでかな。こう…父性?を感じる時がある。
…そう言えば遼太郎とつるむ様になったのも去年の夏頃だったっけなぁ……。

「そう言う遼太郎は朝から勉強?」
遼太郎の後ろの席の悠は自分の席からのぞき込むように遼太郎のノートを見た。
「あぁ、今日は数学の小テストがあるからな。しないよりはマシだと思って」
「え、小テスト?!どうしよ、俺、何も準備してきてない」
「あーぁ、ご愁傷さまww」


こんな2人とこんな風に一緒に居られる日が続くと思ってた。





【時を戻し君を想う】



掃除の時間は帰りのホームルームのあと…つまりは放課後に行われる。…ホント、そういうのよくないと思う。
運動部は練習があるからって言って掃除も程々に逃げていくし、文化部だって"近々発表会があるから"とか何とか言い訳しながら逃げていく。
掃除のする気のない帰宅部は何も言わずにドロンだ。
…ホント、いい度胸してるよね。

おかげでいつも掃除してるのはクラスの中でも数人だけ。
今私が掃除している図書館だって、司書の先生が半ば諦めたように掃除機をかけている。

あまり使われていないせいか新品同様な雑巾で長テーブルを拭いていると、長テーブルの陰に落ちていた何かに気づいた。

「何これ…クルミ?」

それはビー玉くらいの大きさをしたクルミのようなきのみだった。

「…ト●ロの落し物かな……?ってそんな訳ないか。」

こんなところに落としたままでも虫がよってきてしまうだろう。それはあまり喜ばれることではないはずだ。
軽く振ってみると中からカラカラと乾いた音がした。

だから私はそれを捨てようとした。

しかしそれは叶わなかった。
捨てようと手を開いたその時、きのみは青白い光とともに跡形もなく消えてしまっていたのだ。






そんな事があった帰り道。
さっき見たのは夢か幻だったと自分に言い聞かせてそうそうに忘れることにした。
しかし、そのまま帰ってもそう簡単に忘れるわけもないからと、今日は寄り道して隣町の大きなCDショップへ行こう。そう思って駅に来た。

帰宅ラッシュが近いせいか、人で少し混雑し始めている。もうすぐ電車が来る。
急いで改札を通れば間に合う。
通行人の間を縫うように走っていく。
何人かの人とぶつかりそうになりながらもホームへ上がる階段を駆け上がった。
鳴り響く発車ベル。
間に合って…!!

そう急いだのがいけなかった。

駆け上がった階段の一番上で踏み外した足。
一瞬…ほんの一瞬だけ体が宙を舞ったのを感じた。
そして。



長い階段を転がりながら落ちていく途中、首が嫌な音を立てたのが聞こえた気がした。







あぁ、私、こんなつまらない死に方するんだ。


そう思うと悲しくも虚しくも何も感じられなかった。





強い衝撃に目を開ければ、目の前で尻餅をついている中年のおばさんが見えた。

どう見ても私がぶつかって倒れたように見える。


…ぶつかって倒れた?

混乱する私の耳に聞こえてきたのは発車を知らせるベルの音。
ついさっき発車したばかりの線からまた電車が出ると言う。


…どういうこと??
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