企画
□淡い夢の中で、
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ふと意識が覚醒した。
けれど動かない体。
まだ半分は寝ているのだろう。
左側に温もりと、左腕に心地良い重さ。
すぅすぅと静かな寝息が聞こえる。
外からはまだ雨の音がしていた。
室内がしっとりとした心地良い空気に浸されている。
それは情事の後だからか、雨のせいか。
あのまま寝ちまったのか・・・。
素肌に感じる隣の体温は、俺よりも少しだけ高い。
こんな時間を、幸福だと言うのだろう。
愛しい女の体温を感じながら、夢と現を漂うような時間。
彼女がふいに動いた。
それを動けないままに感じる。
俺の体に擦り寄るように動いて、また規則正しい呼吸を繰り返す。
幸せだ、と思った。
無意識にでも俺を求めてくれている様で。
一層近くに彼女の体温を感じる。
呼吸さえも肌で感じ、くすぐったいようなその感覚に、動けない口元が緩んだ。
それがきっかけのように、眼が開く。
左側に顔を向ければ、彼女の寝顔。
それは普段の柔らかい印象を、なお一層柔らかくしたような寝顔。
何度この柔らかさに救われたことか−−。
常に死を背負い、死と隣り合わせで生き続けるのは、精神を徐々にすり減らす。
そんな生き方は、いつ死んでも構わない覚悟と共にあった。
あった、はずだった。
けれどこいつと出会って、それが変わった。
変えられたと言ってもいい。
『本当は、生きたいのでしょう?』
そんな言葉を向けられ、全て暴かれた気がした。
それが恐ろしくて、こいつを無理矢理に抱いた。
壊れてしまえばいいと思った。
俺の腹の底を勝手に掬い上げ、暴くような女など、壊れてしまえ、と。
けれど、そんな腹などお見通しだとでも言うように、こいつは笑ったのだ。
その瞬間に悟った。
俺は、こいつと共に生きてぇんだ、と。
死にたくねぇと言ったのは、あれが最初で最後だ−−。
動く様になった右手を、彼女の背中に回す。
こちらに引き寄せるように抱きしめれば、
「・・・ん。」
漏れる声。
「・・・十四郎・・・?」
こいつが俺の名を呼ぶたび、何度も何度も幸せだと言う気持ちが、腹の底からわき出る。
「・・・まだ寝てろ。」
「・・・寝れないの?」
「いや・・・。」
そう言うと、彼女の手が背中に回され、優しく撫でられた。
死にたくねぇと口にした、その時と同じように。
その優しさと温かさに、俺はまた眠りに引き込まれるように眼を閉じた。
淡い夢の中で、触れるお前の温かさに、俺は何度だって生かされる−−。
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