企画
□愛してる
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夏の暑さは急速に失われ、風が涼しい空気を纏う。
青々と色づいていた木々が、赤や黄に染まっていく。
秋が好きだった。
どこか物悲しげな、少し寂しい季節。
対照に、明るく暖かな色に染まる景色。
けれど空気は徐々にぴんと張りつめ、鋭さを増す。
その季節の境が目に見えるようなところが、好きだった。
冬へと向かっていく季節。
終わって行く季節。
もう好きになれそうにない季節−−。
電話が来なくなったのはいつからだったろう。
メールも、いつからか来なくなった。
会えない時間が増えてきて、いつしか、もう会うことも無いのかもしれないと思い始めた。
最初から忙しい人だとは、分かっていた。
それでも、側にいたいと願って、側にいることを許された。
隣で笑って、触れ合えた。
今ではもう良い思い出だったなぁと、それだけ。
ずっと共にと願ったけれど、その願いはきっと叶わない。
私に対する気持ちなど、聞いたこともないし、問いもしなかった。
それだけの関係だったのだ。
恋人とは名ばかりの、何かを補い合う関係。
寂しいという感情さえ、今はもう、無い。
最初は確かにあった寂しさは、時間が経つにつれ、飽和し、沈殿し、すっかり固まってしまった。
そこに含まれていた愛しさも、すっかりと。
それは固まり、ひび割れ、いつしか消えていく。
そう言うものなのだと、ただ思うだけ。
縋って引き留めたって、彼が決意したことは簡単に覆せはしないだろう。
そして例え引き留められたとしても、終わったものは、もう二度と始まらない。
好きで、好きで、堪らなく愛しくて。
側にいられるだけで幸せだと思った。
思っていたのに、欲が出た。
ずっと側にいたいと願ってしまった。
だからきっと、もう終わり。
この気持ちを、早く消さなければ。
このまま、硬くてひやりとする感情を持ったまま生きていくのは、辛すぎる。
私はきっといつまでも先へと進めず、ここに留まってしまう。
だから、髪を切った。
失恋して髪を切るなんて、莫迦だと思っていた。
けれど今ならそれが痛いほど分かる。
何かを振り切るために、髪を切るのだ。
そして思い出の残る携帯を変えた。
連絡が来るかもしれないと、いつも待ってしまうから。
さらに引っ越そうと思って、荷造りを始めた。
この部屋には、思い出が多すぎる。
そうまでしなければ、彼への気持ちは消せない。
それほどまでに愛していた。
涙などとうに枯れ果てて出はしない。
寂しさと愛しさと共に、涙もきっと固まった。
唐突に鳴った呼び鈴の音に、また期待が頭をもたげる。
そんな自分に自嘲する。
ここまでしても、まだ彼を望んでしまっている。
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