企画
□瓦解するもの
2ページ/2ページ
「心配じゃ無いとしたら、・・・何です?」
問われて口ごもる。
思わず舌打ちが零れた。
くすりと小さく女が笑った。
「・・・想って、くださってたんでしょうか。」
小さな呟きは、はっきりと俺の耳に届いた。
「・・・今更だ。」
「・・・告げないまま、殺せますか?」
上げた顔は凛として、向けられた目は真っ直ぐに俺の目を捕らえる。
「告げて、意味があるとは思えねぇ。」
「・・・そうでしょうか。」
すっと伏せられた瞼。
そこに滲む感情は、何だ−−。
「若旦那よりも愛する自信があるなら、告げるべきだと思いますよ・・・。」
そんな自信など、とうにあった。
好きでもねぇ団子を、毎日のように買いにくるほど。
惚れ込みすぎて、何も告げられないほどに愛していると。
そう告げたら、お前はどうする。
「・・・自信は、ありませんか?」
挑むような目に、ぐらりと俺の全てが揺さ振られる。
「ある。」
そう一言強く言い放つ。
けれど切なそうに歪む眼差し。
きゅと唇を噛むその動作。
俯いた表情は、全てを窺わせない。
どくどくと煩いほどに心臓が脈打つ。
女がくるりと背を向けた。
その拒絶に、酷く煩い音を立てて全てが崩れ落ちる。
頽れそうになる体を、ただひたすら足に力を入れて留まらせた。
「・・・そこまで想ってくださってるなら、」
女の声はどこか遠くから聞こえて来る。
「きっと、幸せになれますよ。」
落とされた言葉は、俺の中で意味を成さず。
音だけが頭の中に響いていく。
小さく振り返ったその目元に何かが光って見えて、どういう意味だと問おうとした言葉を飲み込んだ。
「・・・あの子も・・・きっと喜びます。」
あの子・・・?
「今呼んできますから。」
そう言って店へと一歩踏み出す背中に、
「お、おい!」
ぴたりと歩みが止まった。
「・・・結婚すんのは、お前じゃねぇのか・・・?」
「・・・は?」
振り返ったその目から、つうっと一筋雫が流れる。
「いや、だから、お前が・・・結婚するって・・・。」
呆然と俺を見上げるその顔が、徐々に赤く染まっていく。
「・・・結婚するのは、この店の娘さんですよ?」
思わず顔を覆った俺に、小さな笑い声が聞こえた。
「・・・土方さんが想ってる人って、・・・誰ですか?」
笑いを含んだ声に、今度こそ全てが崩され壊された。
.