企画

□瓦解するもの
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「心配じゃ無いとしたら、・・・何です?」

問われて口ごもる。

思わず舌打ちが零れた。
くすりと小さく女が笑った。

「・・・想って、くださってたんでしょうか。」

小さな呟きは、はっきりと俺の耳に届いた。

「・・・今更だ。」

「・・・告げないまま、殺せますか?」

上げた顔は凛として、向けられた目は真っ直ぐに俺の目を捕らえる。

「告げて、意味があるとは思えねぇ。」

「・・・そうでしょうか。」

すっと伏せられた瞼。
そこに滲む感情は、何だ−−。

「若旦那よりも愛する自信があるなら、告げるべきだと思いますよ・・・。」

そんな自信など、とうにあった。

好きでもねぇ団子を、毎日のように買いにくるほど。
惚れ込みすぎて、何も告げられないほどに愛していると。

そう告げたら、お前はどうする。

「・・・自信は、ありませんか?」

挑むような目に、ぐらりと俺の全てが揺さ振られる。

「ある。」

そう一言強く言い放つ。

けれど切なそうに歪む眼差し。
きゅと唇を噛むその動作。

俯いた表情は、全てを窺わせない。

どくどくと煩いほどに心臓が脈打つ。

女がくるりと背を向けた。

その拒絶に、酷く煩い音を立てて全てが崩れ落ちる。
頽れそうになる体を、ただひたすら足に力を入れて留まらせた。

「・・・そこまで想ってくださってるなら、」

女の声はどこか遠くから聞こえて来る。

「きっと、幸せになれますよ。」

落とされた言葉は、俺の中で意味を成さず。
音だけが頭の中に響いていく。

小さく振り返ったその目元に何かが光って見えて、どういう意味だと問おうとした言葉を飲み込んだ。

「・・・あの子も・・・きっと喜びます。」

あの子・・・?

「今呼んできますから。」

そう言って店へと一歩踏み出す背中に、

「お、おい!」

ぴたりと歩みが止まった。

「・・・結婚すんのは、お前じゃねぇのか・・・?」

「・・・は?」

振り返ったその目から、つうっと一筋雫が流れる。

「いや、だから、お前が・・・結婚するって・・・。」

呆然と俺を見上げるその顔が、徐々に赤く染まっていく。

「・・・結婚するのは、この店の娘さんですよ?」

思わず顔を覆った俺に、小さな笑い声が聞こえた。

「・・・土方さんが想ってる人って、・・・誰ですか?」

笑いを含んだ声に、今度こそ全てが崩され壊された。



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