企画

□閉じた瞳
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膝の上の体温を確かめるように、その無造作な黒髪を撫でる。

さらさらと指をくすぐる感触が酷く気持ち良い。

ふわりと窓から暖かな風が入ってきて、部屋の中の空気を動かした。
そして香る煙草の匂い。

十四郎が来ると、いつもこの匂いが部屋を満たす。

入ってきた風は、十四郎の髪を微かに揺らした。
閉じた瞼の上のまつげも揺れたように感じて、髪を撫でていた手を止める。

じっと見下ろしたその瞼が開くのを、静かに待つ。

けれどまだ、瞳は閉じられたままだ。


久しぶりの休日だと言って、寝てばかりだと小さく笑う。

そしてまた、髪を撫でる。

前髪を払うと、形の良い額が一瞬だけ覗く。
すぐに戻る前髪は、さらさらと指から逃げていくのに、いつもすぐに元通り。

形状記憶されてるのかな・・・。

前髪を結ったらどうなるのかと想像して、また小さく笑った。

微かに身動ぐ十四郎。

手を止める。

瞳は開かない。


昼過ぎに起きてきて、お昼を食べたらまた寝てしまった。

相当疲れているのだろうと分かるから、何も言わない。

ごろりと横になった先には、私の膝。

何も言わないけれど、甘えるようなその所作が愛しいと思う。

少し痺れてしまった足に、体勢を変えようと動いても、まだ起きない。


鋭い双眸は閉じられていて、微かに開いた唇から、規則正しく呼吸する音。
呼吸に合わせて、胸も上下する。

「・・・ごめんね。」

小さく呟いた言葉は、窓から入ってきた風に攫われた。

聞いていないことを知っていて、言葉を吐き出すのは卑怯だと分かっている。
けれどたまに、無性に言ってしまいたくなる。

だから、その目が開かないうちに、狡い私は吐いてしまう。

頭を撫でていた手が取られた。

「・・・何が。」

呼吸を繰り返すだけだった唇が、音を紡いだ。

けれどまだ目を閉じたまま。

綺麗な二重の瞼が、まつげの上を縁取っているのを羨ましいと思った。

「・・・起きてたの?」

「・・・今起きた。」

「もう少し寝たら?」

握られた手に力が籠もる。

「ごめんって何だ。」


仕事が忙しいことを知っている。
その仕事に、人の命を奪うことが含まれていることを、知っている。

真選組が何よりも大切で、局長の近藤さんの為に命を掛ける覚悟で居ることを。

それを誇りに思っていることを。

私を置いて逝った時の事を考えてくれていることを。

知っていて、何も言わずに居る。


私はきっとこの人の重荷になる。

けれどこうして一時でも、安らぎを与えてあげられるならば。

その重荷で居ることを、私は選んでしまう。


「・・・離れられなくて、ごめんね。」

ぎゅっと握った手に力が籠もって、閉じた瞳がゆっくりと開く。

「・・・互いだ。」

繋がれた手が軽く引かれて、十四郎に顔を寄せる。


愛してると互いに囁いて、交わす口付けは何よりも幸せで。


共に命ある限り側にいようと、いつも互いに誓い合う。



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