駄文(長)
□昨日、見た夢
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伝手を辿ってやっと手に入れたビデオをデッキに入れた。引き気味の視点から映し出されたコート。それからゆっくり電光掲示のスコアをなめて、白のユニフォームのウォーミングアップ風景が映し出された。時折フレームから被写体が消える。手ぶれもひどい。そのうちカメラが三脚に据え付けられたのかようやく画面が安定した。
苦心惨憺で手に入れたビデオは3年前の全中決勝戦…そこに三井がいた。
首謀者だと名乗りを上げた堀田達と桜木軍団、それから赤木達三年生が指導室に引っ張られ、うやむやのうちに解散になったその足で、宮城はクラスメートの自宅に押しかけた。盛大に絆創膏だらけの宮城にびっくりしながらも、武石中出身のクラスメートはその場で卒業アルバムを引っ張り出すと、片端から電話をかけまくり算段をつけ、必ず後で届けてやるからと約束してくれた。
「ダビングしてくれたから返さねーでいいってさ」
わざわざ宮城の家に届けてくれたクラスメートにロクな感謝も告げないまま、宮城は自室にこもった。
最後は寄れるだけアップになった三井を囲むメンバーの後ろ姿で終わった。
結果がわかっている試合なのに目が離せずに、知らない内に握りしめた両手は汗でびっしょりだ。あんな風にチームメイトに囲まれ慕われていたのに…なぜ誰一人三井を引き留めていなかったのだろう?なぜ苦しむ三井を支えてやらなかったのだろう?
疑問ばかりが浮かぶ。そして理由のつかない憤りが腹の底から湧いてくる。一度はバスケを辞めようと思っていた自分が偉そうに言えることではないけれど…
《綺麗なフォームだったな》
決勝点を決めた三井のシュートが蘇る。放った瞬間、入ることがわかるような…
もうあのシュートが見れないことがひどく残念だった。
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緩やかなドリブルからの鮮やかなシュート…ボードに当たることなく吸い込まれたボール……
「はい〜〜!?」
「ディフェンスあめーよ、木暮」
フッと笑った顔は見事な絆創膏だらけで。
あの画質の悪いビデオで見た、手本にしたいくらいに綺麗だったシュート。もう二度と見ることは叶わないとちょっぴり残念に思っていた……のは事実だけど。
(出戻って来やがんのかい!!)
思わず心の中でツッコんだ。
決して短くない入院生活を経て、漸く退院したその翌日に起因となった三井が再び自分の前に現れて…
【バスケが…したいです】
経緯はどうあれ、自分には単なる言いがかり以外の何物でもなく、涙ながらの三井の姿に開いた口が塞がらなかった。
(全くドーかしてるゼ)
まるで今までずーっと在籍していたかのような三井の態度も、すんなり復帰に手を貸した上にあっさりディフェンスを抜かれたにも関わらずニコニコと笑みを見せる木暮も、感嘆の色を隠そうともしない赤木にも…誰も彼もが数日前の騒動など忘れてしまったかのようだ。
「差し入れよ〜」
明るい声が体育館に響く。私服の晴子と並んでいる彩子の手に何本ものドリンクがある。
「あっアヤちゃん!持つの手伝うよっ!!」
勇んで走り寄った宮城に
「いーわよ、コレくらい」
彩子の答えはいつもながらすげない。それでもめげずにサッと彩子の手からドリンクを取り上げる。
「こんな重いモン、アヤちゃんに持たせらんないよ!」
「だったら差し入れしてくれた晴子ちゃんのを真っ先に持ちなさいよ」
「だ、大丈夫ですよぅ」
「晴子さんのはこの桜木花道が受け取りますからっ」
「まだまだ休憩だなんて言っとらんぞっこのバカタレ共が!!」
宮城と桜木に赤木の拳が容赦なく振り下ろされ、悶絶する2人を見た部員達の笑い声が体育館いっぱいに響いた。
**************
「いいぞぉ〜リョータぁ!」
甘く耳を打つ声に目の前のディフェンスそっちのけで思わず振り返る。頬が紅潮してしまうのも当たり前だ。いつだって彼女の笑顔が見たいから…だから頑張れる。
「あぁんっ!見るな、バカ!」
ぽってりと柔らかそうな唇から似つかわしくない台詞がこぼれ落ちる。
もらった!と目の前のディフェンスが叫んだ瞬間、宮城の体がふわりと浮いた。
(アヤちゃん…)
ボールが手を離れた瞬間、宮城ははたと気づいた。
(ヤベッ)
ノールックのまま後ろ手に繰り出すパスは宮城の得意の一つだったが、これを受け取れる相手は赤木しかいなかった。その赤木にでさえ事前にアイコンタクトを送って置かなければ、確実にキャッチしてもらえないのだ。
慌てて振り向いたその先にいたのは……
高く飛ぶ体。ゴールを見据える眼差し。しなやかな腕から放たれたボールは大きな弧を描いてボードに当たることなく吸い込まれる…
「三井!!武石中の三井寿だっ」
誰かの声が飛んだ。
(あン時のシュートだ!)
ビデオの画像が脳裏をよぎる。思わず息を飲んだ、あの決勝点のシュート…
「よぉっし!」
握り締めた拳で小さくガッツポーズを決め、三井は宮城に歩み寄って来た。
興奮に瞳を輝かせて右手を上げる。たった今シュートを決めた手のひらを、鋭いパスを繰り出した右手と軽い音を立てて合わせた。どこか得意気に見下ろす三井の眼差しを宮城はニヤリと笑って見返した。
「アンタやっぱスゲーね」
「あ?」
「よく俺のパス分かったよね?」
「…あぁ」
桜木の退場というおまけがあったものの、余裕の勝利に浸りながら集団で駅へと向かう中、いつの間にか宮城が隣に並んでいた。
「アレ、ダンナっきゃ受けてもらえねかったからさ…ちょっとビックリしたよ」
「そーなんか?」
「ウン。ダンナもさ、先に合図しとかなきゃなんねーのよ」
「へぇ」
目を丸くした三井を斜めに見上げながら宮城は薄く笑った。
「よく分かったッスね?」
「……前に一回見てっから」
困ったように眉を寄せながらの三井の答えに宮城の目が見開いた。三井が戻ってきてからの練習でアレを使ったことなんて無かった筈だ。
「え?」
「前に……部に戻る前に、見たことあんだよ。だから」
「いっいつ?」
「いつだっていーじゃねぇかよ!ウッセェな!!」
急に怒りだすと三井は長い足を見せつけるように大きくスライドさせて木暮の元へと行ってしまった。
試合以外で繰り出すようなパスじゃない。ここぞという時の決め技の一つだからだ。
三井は一体どこでアレを見たというのだろう?
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