博物館

□拍手文 2
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「後で俺がやっとくよ」

「いーから、いーから」


鼻歌混じりで、野間は手際良く空いたグラスや食器をまとめて流しに運ぶと、腕まくりをして洗い出した。

フラれた高宮を慰めるという名目の酒盛りは、うやむやに只の飲み会に成り下がり、それはそれで楽しかったがワンルームの自室の惨状は目に余る。
普段だったら、そこそこ片付けてから解散するのに、今日は酔いつぶれた高宮と大楠を追い出すだけで手一杯だった。

空いた酒瓶を片付けながら、見るともなしに流しに立つ野間の背中を見つめた。


「洋平〜」


野間の声に、ふと我に返った。


「ちょっと来てみな」

「なんだよ」


ぼんやりするほど《誰か》を見ていたことなんてなかった…唐突に思いついて、水戸は頬が熱くなったような気がした。
だが立ち上がり、流しまでの数歩のうちに自慢のポーカーフェイスを取り繕えて、水戸は何事もなかった顔で野間の隣に立った。
野間の手に、洗い磨かれたガラスのゴブレットがひとつ。


「知ってっか?」


喧嘩慣れした無骨な手が、流しの縁に置いたゴブレットにソッと指先を走らせる。

澄んだ音がひとつ、鳴った。


「グラスハープ…いい音だろ?」


傍らの水戸を覗き込むように顔を寄せて、口角を上げた。


「お前に、似てる」


そう囁いて、野間は不意に水戸に口付けた。


「何言ってんだか」


唇が離れた途端、水戸は薄く笑った。


「俺の指で鳴くトコ」


慾を孕んだ声で、水戸の耳元で囁く。舌先で、耳殻をなぞり


「ここ終わったら、後でいっぱい『鳴かせて』やるよ」


白く薄い耳をカプリと噛んだ。









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