博物館
□拍手文 3
1ページ/1ページ
こんなもんかな、と独り言ちて火を止めた。2人暮らしに似つかわしくない大きさの鍋に笑みがこぼれる。この味と共に譲り受けた思い出の鍋だが、全然気付いていない所がらしいと言えばらしいのかもしれない。
自分のことになると相変わらず盲目になるあからさまな愛情表現にも何時しか慣れ、咎める気も起きない辺りはだいぶ感化されたのかもしれない。
ゴトンと鈍い音がして、三井はエプロンを外すと玄関に向かった。輪ゴムで止められた年賀状の束を手にリビングに戻る。手慣れた手付きで素早く年賀状を分けていく。
「おっきくなってんなぁ」
写真付きの年賀状で子供の成長を知り、着飾りかしこまった様子に笑みがこぼれる。
「おはよ…なンかいい匂い」
後ろから抱きついてきた宮城が三井の耳に鼻先をすり寄せてきた。
「言うセリフが違ぇだろ」
わざと頭を振ってぶつけると、
「新年早々痛ぇって」
と、宮城はボヤいた。
「去年も同じセリフ言ってんだっつの」
「うん、毎年の【お約束】だもん」
「だもんとか言うなよ、イイ年してよ」
「いーじゃん」
「ったく…見せてやりてぇよな、【ミヤギ先生】」
三井の冷やかしに鼻を鳴らして宮城は形の良い耳に軽く歯を当てた。ン、と甘い声がこぼれて三井は手にしていた年賀状の一枚を宮城に見えるように掲げた。
「幸香ちゃん?」
「七五三らしいぜ」
「へぇ〜」
眠たげな宮城の目が見開き、それからクスクス笑いだす。思い当たる節のある三井は呆れたように毎回笑うなよ、と呟いた。
『三っちゃんよりも愛してる』
という三井にしてみればふざけたプロポーズは未だに仲間内の語り草で、いい加減うんざりするがプロポーズした方もされた方も大満足で、何度も繰り返すから手に負えない。
「堀田クンの武勇伝なんだから、ンなイヤそーな顔しねぇの」
音を立てて頬に口付ける。甘えた仕草ですり寄る宮城の頬に自分の頬を寄せ
「明けましておめでとう」
と小さく言った。
続