博物館

□拍手文 4
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嫁ぎ先に新年の挨拶にと出かける前に、必ず立ち寄り雑煮に舌鼓を打つのが宮城の2人の姉の毎年の恒例行事になりつつある。


「やっぱり【お正月】はこの味よねぇ」

「ホント、ホント…ヒサくんがお母さんの味、受け継いでくれて良かったわ」

「雑煮くらい自分チで喰え」

「「うるさい」」


2人がかりで睨まれて、宮城はムッとしたままそっぽを向いた。場の空気を取りなすように三井が


「そういえばお義兄さん達はご一緒じゃないんですか?」


と、問いかけると向こうに持っていくお土産を買いに行かせたと異口同音に答えられてしまった。



心ゆくまで三井の作った宮城家の雑煮を楽しんだ後、それぞれ迎えに来た夫と共に晴れやかな笑顔で辞した。


「ったく…毎年鬱陶しい」


舌打ちする宮城に思わず三井は笑ってしまう。先刻宮城が席を外した時に2人の義姉が予想していた通りの行動で、やっぱりいくつになっても宮城は可愛い弟のままなのだろう。
笑いの止まらない三井に向かって唇を尖らせてみせた。

不意に初めて宮城家の雑煮を出され、戸惑う三井に向かい笑顔を見せた義母を思い出す。


「こういうお雑煮は初めて?」


頷いた三井に


「私も初めて食べた時はびっくりしたのよ」

「そうなんですか?」


三井の家ではごく普通のすまし仕立てだったが、宮城の家ではいりこの出汁に味噌仕立てで煮込んだ丸餅と白菜だけの緩くとろみのついた雑煮だった。
まるで白菜の味噌汁に餅を入れたようで…でもやっぱりそれは普段食べる味噌汁とは別物で…

いつの間にかこの味に慣れた。

2人の義姉達も嫁いだ先の雑煮は慣れたけど、と言いながらそれでも物心ついた時からの味には別の感情が沸くのだと言う。自分の家の味にそこまでの気持ちは動かないが、なんとなく言いたいことが判るような気もする。


「ネェ、やっぱり来年の正月は旅行に行こうゼ」

「ヤダよ、混むから」

「だってまた姉貴達来ンじゃん…せっかく2人の正月なのにさぁ」


本気でムクレている宮城に唖然となる。一緒に暮らしているのにせっかくも何もないだろうに…


「俺は気に入ってんだけど?」


ゆっくりと宮城の体に腕を回して


「お前と【家族になった】って…実感出来てすげぇ嬉しい」


こんな風に穏やかに2人で過ごしていけるようになるなんて、想像することさえためらっていた。刹那的で破滅しかないと思い込み、傷付けあっていたあの頃の自分に伝えたいと思う。

迷わずに進んだ未来にある幸せを。繋いだ手を離さずに歩いた先にある喜びを。


「お前にも教えてやりてぇよ、リョータ」









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