博物館
□拍手文 5
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「三井サン、眠いの?」
そんなに眠いワケじゃない、ちょっと目を瞑っただけだと答えたかったが、口からもれたのは
「ん」
一音だけだった。そのままゆらゆらと電車の振動に合わせているような三井の頭が隣に座っている宮城の肩に落ち着いた。
「寝てていーから」
小さな声が聞こえたような気がして、三井はそのままくったりと力を抜いた。
強化合宿と言うだけあって常誠高校での合同練習は普段の練習よりも厳しいものだったが、何より三井がつらかったのは合宿所での生活だった。他校の設備に不満も言えずに一週間、部員全員が一つの広間で雑魚寝だったのだ。
食事を済ませて、代わる代わるに風呂も入って指先も動かしたくないほど疲れ果てて布団に潜り込んでも、脳のどこかが冴えて望む睡眠が得られない…
他人と同じ部屋で眠る。それは三井が最も苦手なことだった。
ボソボソと交わされる声。
自分と違うリズムの寝息。
何度繰り返される寝返り…
そのどれもが三井の神経に触る。体は睡眠を欲しているのに、明日もキツい練習があるのに…そう思えば思う程、安眠からは遠ざかり悪循環に溜め息をついた。
「…サン……三井サン…三井サンてば」
軽く腕を叩かれてハッと気がついた。
「そんなに眠かったンすか?」
欠伸をかみ殺しながら宮城が問いかけてきた。
「寝て…た?」
「あ〜ウン。わりとスグに」
左肩を軽く回しながら答えた宮城の耳が、うそだろと小さな三井の呟きを捉えた。
「ウソじゃねーし。肩借りた礼くらい言って欲しいモンっすよね、三井センパイ?」
「肩?」
そんなに驚くような話かと宮城が訝る程、三井は目を丸くして宮城をじっと見ていた。
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不意に意識が覚醒して、三井は見慣れたはずの天井を凝視した。今し方見ていた夢の破片が強く刻まれて、心臓の辺りがキュウっと軋んだ。
「みやぎ」
無意識に呟いた三井の腕に触れてくる温かい手が宥めるように二度三度撫でてきた。
「あ、ワリィ」
起こしてしまったのかと慌てて横を見れば、件の相手は目を閉じて規則正しい寝息のままでいる。
どうやら完全に目覚めていた訳ではないらしい…
夢うつつにありながら、それでも自分を気にかけているのだろうか?面映ゆい気持ちで三井の顔が綻んだ。
『他人』と同じ部屋で眠りにつけない自分の為に、病院では必ず個室だったのを思い出す。
「独りじゃねーと寝れなかったんだぜ」
傍らで眠る相手にそっと囁いた。
いつからだろう?この温もりにかけがえのない想いを抱くようになったのは…
いつからか、この寝息が何よりも深い眠りへと誘う眠剤になっていた。
伸ばされた腕を静かに外し、指先を絡めると三井はそっと目を閉じた。
終