駄文

□うさぎ
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「アンタってウサギに似てるよね」


ケージの中に居るのは真っ白だったり真っ黒だったり茶色だったり斑模様だったり…ふわふわな小さな生き物たち。
片手に乗るくらいの生まれて間もない仔ウサギだ。

柔らかそうな毛からうっすら地肌が透けて見え、つぶらな瞳とピクピク動く鼻先は、いかにも頼りなく愛らしい。

いったいどこが似てるって?


「意味わかんねえよ、ばか」


宮城がわけのわからないことを言い出すことにはかなり慣れたつもりでいたが、やっぱり宮城の思考にはついていけない。


「え?よく似てンよ」


宮城は持ってきたデジカメで、もこもこと集まる仔ウサギの塊を上機嫌で撮った。





宮城から動物園に行こうと誘われた時、三井は自分の方が聞き間違いをしたのかと思った。


「久しぶりでしょ?たまにはああいうトコも悪くねえじゃん?」


別に動物が嫌いな訳でもないが男2人で平日に動物園を散策する様を思い浮かべて、ちょっとそれはどうなんだ?と三井は思った。


「お前ちっと冷静になれ」


うんざりしたような三井の声に宮城は低く笑った。


「大丈夫だって。メモりながら写真でも撮ってりゃ課題か何かだと思ってくれるって」


そんな都合のいい解釈が成り立つか。

そうは思っていたが結局いつの間にか宮城の良いように話が決まっている。
大体言うだけ無駄なのだ。宮城がやりたいと言ったことに、逆らえた試しが無い。





久々に訪れた動物園は、平日なせいか人影もまばらで、何だかやけに広々として見えた。


「やっぱ空いてンね」

「何かガキの頃と違う感じすんだよな…」

「あ〜ちょこちょこ改装してるみてえだもん」

「へぇ〜」


一通り回ってそろそろ帰ろうかというとき、宮城はある一角を指差した。


「あそこ寄ってかねえ?」


誘われるままついていくと、金網で覆われたその場所にはちゃんと入り口があった。
可愛らしいひらがなと動物の絵で飾り付けられた入り口をくぐる。
中には色々な動物が放し飼いになっていて、小さなヤギや羊や変わった柄の鶏が歩き回ったり、餌を食べたりしていた。
どの動物も人に危害を加える心配のない動物ばかりで、おぼつかない足取りの幼い子供が、ウサギやヒヨコを追いかけまわしている。


「三井サン、ほら」


宮城の呼ぶ方を見ると、腰ぐらいの高さの台に幾つかのケージが並べられていた。その中にやけに小さなウサギがいる。
どうやら生まれたての仔ウサギのようで、まだ放し飼いには早いらしく別にしているのだろう。

こういう動くぬいぐるみのような動物は掛け値なく可愛い。
自分達ばかりでなく、ケージを覗く誰もが目を細めて『可愛い』を連発していた。

そこで聞かされたのが、さっきの宮城の台詞。


「俺はこんなに耳も長くねーし全身毛だらけじゃねえぞ」

「尻尾も無いしね」


悪びれた様子もなく、宮城はにっこり笑って言った。





午後のやや傾いた日差しがぽかぽかと暖かい。
動物園の帰り、近道をするために公園を突っ切っていたら宮城が


「ね、知ってる?」


と、言い出した。


「ウサギってさ、あー見えて結構凶暴なんだよ」

「…しつこいな、お前」

「白いし、鳴かないし、気まぐれだし、言うこと聞かないし」


じろりと無言で睨みつけても宮城は全く気にする様子がない。それどころかひどく楽しげに笑っていた。


「そのくせ、撫でられンのが好きだし」


その台詞だけ、声のトーンが違っていた。


「…ウサギ触ったことある?すげぇ触り心地いいんだよ」


にやりと唇の端を上げて


「それに、ウサギは一年中発情期」

「……俺はウサギじゃねえ」


そう言って宮城に背を向けた。急ぎ足で歩いても、宮城はすぐに追いついて三井の肘にそっと体をぶつけてくる。


「この後、部屋で撫でさせてくれっとウレシイんだけどな♪」


そんな馬鹿げたことを言いたいが為にこんな所に付き合わせた馬鹿やろうに、この後なんかあるかと言ってやろうかと思ったが、その台詞は胸の中だけで呟いた。
多分何をどう三井が言おうと、宮城の思い通りになるのは目に見えている。
駅に着いた宮城が勝手に同じ行き先の切符を二枚買うのを止めなかったのがいい証拠だ。


せめてもの仕返しに、ウサギの真似をしてその手に思い切り噛み付いてやろうか――










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