駄文

□ボクとキミの夏 2
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目を開けると見慣れない天井に宮城は戸惑った。

(ドコだ?)

「あ、目が覚めた?」

掛けれた声の方に視線をやれば、目尻を下げた幼なじみが笑顔で覗き込んできた。

「気分、どう?気持ち悪かったりしてない?」

「ヤス?」

「リョータ、部活中に倒れちゃったんだよ…覚えてる?」

宮城の枕元に手を伸ばした安田がブザーを押す。

「どうされました?」

「あ、宮城リョータの付き添いです。今、気が付いたんですけど」

「わかりました、今行きますね」

ブツンとスピーカーの切れる音が響いた。

「病院?」

「うん、そう」

ドアを開ける軽い音と共に

「宮城さん、ご気分いかがですか?」

と、看護婦が入ってきた。テキパキと点滴を外し、体温を計りながら傍らの安田にいろいろ話しかけている。宮城はベッドに横たわったまま、すっかり暗くなった窓の外をぼんやりと見ていた。




担当医の診断を受け、明日の部活は休むように告げられた。宮城は迎えに来ていた安田の親の車に乗せられ、安田の家に泊まるように言われた。どうやら両親のどちらも今夜は泊まり込みになるのだろう。病み上がりという程でもないつもりだが、小さい頃から良く知っている安田の親は、今更何の遠慮があるのだと豪快に笑い、たまにはウチの飯も喰えと宮城の背中をバシバシと叩いた。
並べて敷かれた布団に横になると、子供の頃互いの家に遊びに行っていたのを思い出して、なんだか懐かしくなる。

「ヤスんち泊まるの、久しぶりだな」

「なんか懐かしいよね」

同じことを思ってたのかと、顔を見合わせて笑う。

「明日さ、休みなったからのんびり出来るよ」

たまにはグダグダ朝寝坊したいね、なんて安田が言いだした。

「休み?」

「うん、そう」

ほんのり眠そうな目で、安田が笑む。

「…俺のせい?」

「うーん…どうかな?違うんじゃない?」

「でもさ」

「安西先生が言ったって。《休息も大事ですよ》って」

それでもやっぱり…とは思ったが、安田が本心から信じているのにクドクドしつこいのも自分らしくないようで、宮城は黙っていることにした。

「三井先輩さ」

「え?」

「三井先輩、木暮先輩に結構怒られちゃったんだって」

「なんで?」

「ん〜よく知らないけど」

ほら、僕リョータと一緒に安西先生の車乗ってっちゃったから…

明後日、カクかシオに聞いてみたら?

そう言うと、寝つきの良さは小学生の頃から変わっていない安田はあっさりと寝息を立てた。


規則正しい安田の寝息を聞きながら、宮城はゴロゴロと寝返りを繰り返す。
病院でずいぶん眠ったせいか、ちっとも眠くならない。
倒れる前、何かとても大事なことを考えていたような気がするのに、何を考えていたのかがわからない。
意識が朦朧とするから多少記憶が曖昧になったのかもね、と担当医が言っていたのを思い出して、ますます気が滅入る。
思い出せないならすっぱり忘れた方が楽なのに、大事なことなのに、忘れてしまっているということだけがどうにも頭から離れない。

(なんだかなぁ…)

うつ伏せになって、枕に顔を押し付ける。時計の音、安田の寝息、外から聞こえる車の音…普段とは違う音が、脳を掴んで離さない。いつも聴きながら眠るボサノバは親父の趣味で。でも赤ン坊の頃からずーっとソウだったから…《子守歌》が無きゃ寝れねーって年じゃねーし、と胸の中で一人ごちて宮城は隣の安田を起こさない程度に小さく笑った。

(なんでまた怒られてんのかね?アノ人は…)

どうせまた俺サマ全開のムチャ振りを発揮して、誰かを困らせたんだろうな……桜木とか…?

そう思って、イヤちょっとまて…と訝しむ。
ある意味アノ人に似合いのド派手な事件からこっち、部内で一番ムチャ振りに振り回されているのは俺じゃないかと思い至る。木暮らしい配慮?と安西先生からのお達しでガードコンビを組まされて…

イヤイヤイヤ…フツー組まさないでしょ?仮にもボコってボコられて、ティーンなのに差し歯を入れる羽目になった上に、貴重な春休みを病院のベッドに縛り付けられた(向こうも同じだけど)相手ですよ?

なんて言葉を出すこともできないままに、いつの間にか『三井のお守りは宮城』なんて役回りになっている。
それこそ最初は冗談じゃないと罪の無い部室のロッカーやゴミ箱に当たり散らしたのだが…
困ったことに、今までバスケをやっていて、今が一番『楽しく』なってきているのだから我ながら呆れてしまう。
出したい時に、周りを捜さなくても出せるパスに、OF・DFフォローも完璧。そして宮城にはない外からのシュート…一気にオフェンスの幅も広がった。
2年もバスケから離れていながらもその間必死で練習していた木暮のディフェンスをあっさりとかわして決めたジャンプシュートのフォームはうっかり見惚れる程綺麗で、周りの部員達からも宮城からも思わず溜め息が出た。

先輩としての人間性には、甚だ疑問があるが、ことバスケに関してはさすが中学MVPと頷かされる場面も多々あって、初めこそ損な役回りを押し付けられたと憤慨していたが、今じゃ誰にもこの立場を渡したくないとさえ思ってしまう。

(しょうがねぇなぁ…ったく)

仮にもひとつ年上の先輩に対して出てくる台詞ではないのだが、宮城は自分でも気づかないまま頬を緩めて、明後日の部活で

「いつもより、ちっと余分に構ってやるか…」

と、小さく呟いて目を閉じた。






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