駄文

□ボクとキミの夏 5
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《一緒に帰りません?》

そんな風に声をかけて、返事を待つ間、宮城は妙に自分の心臓がドキドキしていることに驚いていた。街中でナンパした時よりキンチョーしてねぇか?オレ…とバカなことを考えて、顔が赤くなってるんじゃないかと動揺してしまう。

《ベツに…いいけど》

三井の返事に腹の中でうっかりガッツポーズをして、気付かれるはずもないのに宮城はそんな自分が恥ずかしくて、三井の顔も見れずに頷くとコートに走り去っていった。





歩いているだけで、汗が滴り落ちる。一緒に帰ろうなどと言っておきながら、宮城はなかなか本題を切り出せないでいた。
今までいつも寄っていたコンビニにスタスタと入っていく三井の背中は、普段と何も変わらない。変わらない筈だ、と宮城は思った。
お決まりのようにアイスを買って、近くの公園に立ち寄った。木陰のベンチに長い手足を持て余すように座り、三井はアイスのパッケージを不器用にビリビリと破りながら


「なに、突っ立ってんだよ」


と、目の前に立ちつくす宮城に初めて声をかけた。


「あの…さ」

「あ〜?」

「すンませんっした!」


謝罪の言葉と共に深々と頭を下げる宮城に、三井は胡散臭そうに睨みつける。


「なにが?」


けだるそうな三井の声に、頭を下げたままの宮城の肩が揺れる。


「ヤ…だから…」

「意味わかんねーし。つか座れよ」


億劫そうな声の三井を、頭だけ上げて窺うように見上げると、男のクセにやたら整った顔にくっきりと、眉間に深いシワを寄せている。自分の良く知っている三井だ…そう思った瞬間、ヘラリと宮城の顔がほころんだ。


「キモい」


きっぱり言い切って、三井はダルそうにベンチの背もたれに後頭部を預け、木漏れ日を見上げた。無造作にシャツの裾を出し、第2ボタンまで寛げて、ただベンチに座っているだけなのに。そんな格好でさえキメてしまうこの人は一体何なんだろう…と、隣に座りながら宮城は首を傾げた。


「あちぃなぁ…」

「…」

「あ〜暑い」

「…」

「…シカトしねーで何とか言えよ」


黙々とアイスをかじる宮城の足を軽く蹴る。


「三井サン」

「あんだよ」

「ゴメンね?」


ご機嫌伺いをするような卑屈な態度の宮城に、三井は満面の笑みを浮かべて覗き込んだ。


「そりゃパスミスか?シュートミスか?それともダセェ、ゲームメイクか?お前、どれのこと言ってんだよ?」


三井の言葉のどれもが今日の練習で思い当たる宮城はムッと唇を尖らせた。

アンタが泣いてたって言うから、とりあえず謝ってやってンのに…


「え?言ってみろよ?」

「…ムカつく」

「お?」

「アンタ、すげームカつくって言ってンの!」

「そーか、そーか…俺もムカつく」

「アァ!?」


剣呑な口調で、今にも飛びかかりそうな雰囲気で、宮城は三井を睨み付けた。そんな宮城の怒りを三井は笑顔のまま見返す。


「何がおかしいンだよ!」

「だってお前ムカつくんだもん」


花が綻ぶような笑顔のまま、三井の右目から、ポロリと涙が零れ落ちた。


「ぶっ倒れてんだもん。すげームカつく」

「み…」

「グッタリしやがって…」

「…」

「あン時もそーだったんだろ?……俺が先に飛んじまってたもんな。お前、ああやってぶっ倒れてたんだろ?」


零れる三井の涙にいたたまれなくなって、宮城は視線を落とした。


「…わかんねースよ…あン時だって……一昨日だって気がついたらビョーインだもん」

「勝手に飛んでんじゃねーよ」

「アンタねぇ!」


好きで意識を飛ばすバカがドコにいるんだ!と怒鳴りつけてやろうと思って顔を上げ、言葉を飲み込んだ。涙が零れる毎に、三井から笑顔が薄れていく。


「…重かったんだ」

「重いって…?」

「お前…グッタリしてて…呼んでんのに…動かねーし…クソッ……なんで…テメー、なんか…ッチクショー…俺…」


顔を背けて肩を揺らす三井を見つめ、宮城はこの場から走り去りたいような、震える体を抱き寄せたいような相反する衝動が湧き上がってきて硬直した。


「俺の知らねートコで…勝手にぶっ倒れんのなんか…ぜってー許さねーから」

「許さねーって…」


何だかものすごくムチャクチャな事を言われてないか?と思いながら宮城は胸が痛くなってきた。
三井が泣いていたと聞かされた時に感じた痛みに良く似たソレは、初めて体育館で見た三井の泣き顔に感じたモノに酷似していて宮城は拳を握り締める。
まとわりつくネットリとした暑さの大気から、絶対必要量の酸素だけが奪われていく。
目の前で泣かれた経験が無い訳じゃないのに…この痛みはいったいどこから生まれてくるのだろう?


「ぜってー許さねー」


泰然とベンチに座っていた三井は両膝に肘をつき、両手で顔を覆い隠した。
宮城はスッと立ち上がると三井の正面に立った。明確な意志を持って、うなだれる三井を抱きその小さな頭に頬を寄せた。


「ごめん、三井サン…」

「ザケンな、」

「うん…ごめん」


胸元から響く嗚咽混じりの囁きが宮城の中の痛みに触れる。


「ごめん…ホントに、ごめん」

「バカ」

「うん、ごめん」


深い溜め息がひとつ。三井の両腕が宮城の背に回された。


「もうぜってーあんな真似なんねーから」


真摯な気持ちのままに宮城の腕に力がこもった。
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