駄文
□Melty Kiss
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中学時代、ツルんでいたヤツが選ぶ基準はいつも『ヴァージン』かどうか、だった。
『俺色に染めてく感じがたまんなくね?』
と、いっぱしのツウぶってたけど正直そんなもんか?と宮城は思っていた。高校に入ってから不覚の10連敗なんて記録を立てて、すっかり【モテない男】の肩書きを背負わされていた宮城だったが、どうやら恋の神様からは見放されていなかったようで…
(ヤッパ『美人』だよな〜)
ウットリと見つめる先には、宮城の想い人【三井寿】がちょうどシュートを決めた所だった。
「ッシャー!」
「キタネーぞ!!ミッチーっ」
「バァカ!今のは立派なフェイクだろ!!」
地団駄を踏みながら悔しがる桜木相手に舌を出して笑い転げてる。
「さっさとコートから出んか!」
と、赤木から2人して襟首を掴まれつまみ出される。
ヤメろ!テメーっこのゴリラ!!オリァ猫じゃねーぞっ
愛らしい口から紡ぎ出される罵詈雑言でさえ、フィルターのかかった宮城からしたら可愛らしく見えるのだから、相当重症だ。
(クゥ〜っチューしてみてぇ!!)
初めて手を繋いだだけで真っ赤になった三井のことだ。キスなんてしたら、どんな風になってしまうのだろう?
好きな相手を『自分色』に染めていく快感を教えてくれる可愛い恋人に、宮城はすっかりホネヌキになっている。
「リョータ…顔」
締まりなく緩んだ宮城の頬をつねったのは、幼なじみで宮城の恋の相談相手をさせられている安田だ。
「キモいから」
「だってさ〜」
「いーから。次、僕らの番だよ。カッコいいトコ見せるんだろ」
小声で言うと、そーだったと慌ててコートに走っていく幼なじみの背中をドリブルをつきながら追った。
我ながらお人好しにもホドがあると自覚しながらも、どうしても宮城を邪険に扱えない。
(いろいろ恥ずかしい相談もしたしな)
初めて好きな子が出来た時、真っ先に相談したのは宮城だった。告白してふられた時慰めてくれたのも宮城だった。初心者の安田にアレコレ助言をしてくれて、スムーズな『初体験』を済ませられたのも宮城のおかげだった。
「オレ、バスケは辞めよーかと思ってンだ」
一緒に入学が決まった湘北高校入学式の朝、並んで歩いている時にポツリと宮城が言った。
「えっ?だってリョータ、安西先生に指導して欲しいからって陵南蹴ったじゃないか」
「そーなんだけどさ…タッパ伸びねーし。せっかくコーコーセーなって汗臭ェのもな〜」
「一緒にバスケやるべって誘ったの、リョータだろ。今更何だよ、それ」
安田がムッとするのには理由がある。本来もう1ランク上を狙える所を宮城に誘われたから、わざわざ落としたのだから。
親も担任もそれはもうあの手この手で安田を懐柔しようとしたけれど、結局安田が選んだ高校は湘北だった。
「勝手すぎだよ、リョータ」
ムッとして早足になった安田を慌てて追いかけながら、一応部は覗くから〜と情けない声を張り上げていたのが去年の春。
しぶしぶ付いて来た体育館で、即効入部をキメたのは宮城の方で、辞めるって言ってたのに…と思いつつ一緒に入部届けを出した。
練習は中学とは比較にならない厳しさで、同級生はどんどん辞めていったけれど、やっぱり安田は宮城と一緒にバスケを続けていた。
2年生に上がってすぐに宮城が入院した時も潮崎と角田はついて来なかったけれど、安田だけは見舞いに通った。
「宮城って怖いよ」
と、潮崎と角田は口を揃えて言うけれど、見かけだけなんだけどな…といつも安田は思ってる。ホントはすごく寂しがり屋で照れ屋でロマンチストなんだけど。
「退院したら性根入れ替えてバスケに専念すっからさ」
なんてケラケラ笑いながら言ってたっけ…それがどーしてこうなったんだか…
ボールを持った瞬間、スイッチが入ったように加速する宮城のドリブルに必死でフォローに走りながら安田はそんなことをつらつらと考えていた。
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ここ最近の宮城はちょっと落ち込み気味で、些細なことで酷く機嫌を損ねる。
今も着替えをしながら、これから居残り練習を控えてブサクサ文句を言う桜木に力一杯蹴りを飛ばしている。
「アヤちゃんがわざわざ教えてくれンのに、なにブーたれてんだよ!」
「だってリョーちん!もー教わることなんかねーよ!天才だから」
「文句言うな!!」
アレは単なるデモンストレーションで、宮城の目下の悩みが別にあることを知っている安田はこっそりと視線を泳がせた。