駄文

□mark
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すれ違い様に、ふと違和感を感じて思わず二度見してきた宮城の探るような視線に、三井は首を傾げた。


「んだよ?」

「イエ…なンか……あっ!!」


違和感の原因に気付いた宮城が小さく叫び声を上げ、その場にいた全員から一身に注目を集めてしまう。


「リョータ!シーッ」


振り向いた彩子にキツく咎められ、宮城は黙り込んだ。

陵南の相田彦一の姉、相田弥生から湘北スタメンにと安西の元に持ち込まれた話はとある音楽ビデオの撮影だった。
神奈川の名だたるバスケ部をプロモーションで使いたい…そんな話が企画され、白羽の矢が立てられた湘北スタメンはチームジャージ着用で慣れないスタジオの中で、撮影をしていた。


「流川君!?起きてるっ?」


カメラマンの声にビクンと流川の体が跳ねた。慌てて駆け寄ったメイクのお姉さんが、パタパタと流川の顔にパフを過剰なまでにはたいている。
しかめ面で、それでもジッと我慢している流川をまだ出番の来ない桜木がゲラゲラと指差しながら笑い、彩子が力一杯ハリセンをお見舞いした。いっそ心地よくなるくらいの小気味良い音に、スタジオのあちこちからこらえきれない笑い声がさざ波のように湧き、一気に場の空気が和んでしまう。


「たわけが」


苦々し気に呟いた赤木の顔色が常のソレに戻っていることに気付いた木暮は密かに安堵の溜め息をこぼした。

コート上では誰よりも頼りになる赤木でも、さすがに緊張するのだとなんだか微笑ましい気持ちになる。


「桜木はどこに居ても桜木なんだなぁ」

「何にも考えてないだけだ、あのバカは…全く」

「いやいや度胸があるよ、桜木は」


頑なにユニフォーム姿にこだわり、自分の主張を押し通した桜木を見ながら、にっこり笑った木暮を見下ろして、赤木はフンッと鼻を鳴らすとそっぽを向いた。



**************



どうにかこうにか撮影を終え、揃って挨拶を済ませた後、その場で解散になる。スタジオの外で桜木を待っていた桜木軍団の面々が興味深々で桜木を取り囲み、やいのやいのと騒いでいる傍を流川が愛用の自転車に跨ると無言で通り越していき、こちらもまた撮影を今か今かと待ちわびていた晴子が、出てきた赤木に駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん!貰ってくれた?」


試し撮りした流川の写真をせがみ、キャーキャーとはしゃいでいる。
可愛い妹の為にこっそりカメラマンに頭を下げていた赤木の後ろ姿を思い出した彩子は、ウフフと口元に手を当てて笑いを堪えている。

そんな一団からするりと抜け出して歩き出した三井に、宮城が走り寄ってきた。


「帰ンの?」

「解散したじゃねーか」

「そっスね」

「ならいーんだろ」

「んじゃ俺も」

「あぁ!?」

「別にいーじゃん。一緒に帰りまショ?………話もあるし」


付け足された一言の不穏な響きにギョッとしたように宮城を見ると、宮城は三井の視線を十分認識しておきながら、わざとらしいまでの笑顔で彩子に向かって手を振っていた。



**************



道すがら一言も口を聞かない宮城の態度に訝り、強い不信感を抱きながらも三井は黙って宮城の隣を平然とした振りのまま歩いた。
宮城の自宅に無言で着き、黙り込んだまま宮城の部屋へと行く。後ろ手でカチャリと鍵をかけた宮城に三井は正面から向き直った。


「誰もいねーのにワザワザ鍵かよ」


しかも来客に茶も無しか、とふてくされたように言う三井に


「茶なんか後で出してやンよ」


と宮城は返し、貪るように口付けてきた―――







「お前、何なの?」


荒い息のままかぶさってきた宮城の熱い躯を、こちらもまた息も整わないまま受け止めた。

無言で始まった行為の間にすっかり日も暮れて、室内に夜の帷が下りている。勝手知ったる遠慮の無さで、三井はどうにか腕を伸ばすとベッドサイドの明かりを灯そうとした。


「点けンなよ」

「もう暗えだろ」

「いーよ、別に」


明かりなんて無くったってヨクしてやっからさ、と囁いて三井の首筋に迷うことなく舌を這わせてくる。
ン、と小さく声を上げながら三井はそれでも強引に明かりを点けた。
闇に慣れた目には眩しい明かりの中で宮城は舌打ちすると顔を背ける。それから躯を起こして自身を引き抜くとベッド脇のテーブルからウェットティッシュを取った。
ハァ…と甘い息が三井の唇から零れ、意図するつもりも無く宮城は三井を見つめた。伏せられたままの目蓋に唇を寄せて、それから宮城は思い出したように三井の顎を捕らえると、引き出したウェットティッシュでゴシゴシと三井の顔を拭き出した。


「なっ何だよ!痛ぇよっ!!おいっ」


強引で容赦ない宮城の手を嫌がり顔を振る三井を、それでも宮城は許すことなく何枚ものウェットティッシュで拭っていく。


「ハイ、おしまい」


気の済むまで散々拭ったのだろう…どこか明るい宮城の声がして、ようやく三井は目を開けた。


「何しやがる!」


顔中ヒリヒリするくらいこすられた三井は低く唸ると、まだ自分の上に当然のような顔でまたがっている宮城の頭を殴りつけた。
悲鳴を上げて転げ落ちた宮城に俺の方が何倍も痛ぇんだよ!と三井が怒鳴る。


「だってヤだったンだもん!!」

「何が、だもんだ、何がっ」

「ドーラン」

「は?」

「塗られてたじゃんかよ、さっき」


キョトンと動きの止まった三井の傍らに滑り込むと宮城は三井の頬に指を走らせた。
ゆっくりと頬を撫で、紅く浮き上がった傷痕を指の腹でこすった。
そこでようやく三井はスタジオでのやり取りを思い出した。
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