記念碑

□どっちもどっち
1ページ/2ページ


三井の両肩から白いシャツを滑り落とした。
灯りをつけた部屋は昼間のように明るい。
こういう状況を三井が許してくれるようになったのは、それほど前のことではない。
少し前までは…2人きりで、しかも暗い部屋でなければ、三井はシャツのボタンに手を伸ばすことさえ決して許さなかった。
明るい場所ではそっと唇を寄せただけで、耳たぶを赤く染め上げてしまう。
顔には出さないようにしていても、白い肌が色づくのはどうしようもない。
三井の性格を考えれば、そんな反応のひとつひとつがむしろ当たり前のように自然で、めちゃくちゃ可愛いと宮城は思う。

でも何度も何度も身体を重ねるうちに、三井も少しずつ慣れてきたようだ。

今、三井は身体を起こしたまま宮城の脚を跨ぐように座っていた。
ベッドの中では、いつも硬く目を閉じて決して視線を合わせようとはしなかったのに。
両腕を首に絡ませて、こんな風に見つめ合ったまま、抱かれるようになるなんて…
宮城は想像もしていなかった。

きっとオレと過ごす時間を、三井サンも気に入ってくれてんだよな

宮城にただ身体を預けるだけじゃなく、最近では積極的に楽しもうとしているようにも見えて、宮城はますます有頂天になった。

「三井サンも動いてよ」

そう宮城に請われれば、自分から腰を揺らすことも厭わなくなった。
まだまだぎこちなさはあるけれど、宮城の肩を支えに確かな快感を追いかけていく。
切なげに寄せられた眉と、熱い息を吐き出す唇が、どうしようもなく色っぽい。
そんな顔を見せられてしまえば、宮城の方だってたまらなくなってくる。
グッと腰を抱き寄せて強く突き上げると、三井は背中を仰け反らせて、白い喉をさらす。
短い声を一度だけ上げ、そのかわり痛みを感じて思わず宮城が呻く程、肩に指を食い込ませてきた。

「どーして、ガマンすんの?」

「…な、にが」

途切れる声は、もう掠れていた。

「声」

三井は黙って荒い呼吸を繰り返しながら、少し潤んだ瞳を宮城に向けた。

「聞かせてよ、もっと」

焦らすように腰を揺らし、汗ばんだ頬に手を添えて、囁く。

「オレしか、聞いてねーから」

優しく言ったつもりだったが、三井は無言で首を横に振った。

「オネガイ」

「い、やだ」

そこだけはきっぱりと言い切る三井の頑固さに、内心舌を巻いた。

「ンじゃま、ジツリョクコーシしちゃおっかな♪」

頼んでダメなら…声を上げずにはいられないように、してやればイイ――

宮城の内面で嗜虐の炎が揺らいだ。
逃げられないように腰を掴んで、下から突き上げるように狙って、深く穿つ。
宮城の意図にすぐに気付いただろうが、三井には抵抗する術はもう無い。
身体の外側を宮城に抱きしめられて、内側は深いところでつながってしまっている。

二重の拘束は、三井を思いきり乱れさせた。
荒い呼吸。汗で滑る肌。収縮を繰り返す粘膜…
言葉以上に、身体は雄弁に語っている。
こんな状態にも関わらず、声を上げないのだから三井の意思の強さには感心すら覚えた。

「頑張ンねぇ?」

「…………っるさい」

唇を噛みしめて、三井は宮城を睨みつける。
そして苦しそうに息を吐くと、自分から唇を重ね、宮城の首に絡みついてきた。

もっと、欲しい―――

三井はそう言いたいのだろう。と、宮城は思った。
こんな情熱的に誘われてしまったら、答えないワケにはいかない。
そのうち、宮城も快感を追うことに夢中になって、何も考えられなくなった。



三井は疲れきった様子で、シーツの上に身体を投げ出していた。
両目は閉じてしまっているが、眠っている訳ではないように見えた。

「ゴメン。ちょっとヤりすぎた?」

笑いながら、肩に毛布をかけてやると、三井は細く目を開けた。

「別に」

不機嫌そうな答えに、いよいよ笑いが止まらなくなりそうで、宮城は毛布ごと三井の身体を抱きしめる。

「あんま強情なんだもん」

ついね、と続ける宮城を、三井は毛布にくるまったまま、唸るような低い声で詰った。

「お前だって、声出さねーだろ」

「ンなことねーよ。名前呼んでっし」

聞こえてねえの?と問いたくなったが、とりあえず黙って三井の返事を待った。

「そういうのじゃ、ない」

怒った口調でそう言ったきり、三井は口を噤んでしまう。

三井が言いたいのは、喘ぐ声という意味なんだろうか?

「そーかな?」

声を聞きたいと思ったことは間違いないが、自分がどうだったかなんて覚えている訳もなく、宮城は首を傾げた。

「じゃあ、もう一回……試してみようぜ」

さっきまでの気だるそうな表情は消え、妙に艶めかしい目つきで見上げているのに気付いて、宮城の心臓がドクンと音を立てた。

「エッ?い、今!?」

焦る宮城を無視して、三井はするりと毛布から抜け出した。

「俺にも、声聞かせろよ」

呆れるほど綺麗で、だけど危険な色の瞳に縛り付けられる。
気付いた時には、シーツに押さえ込まれているのは宮城の方だった。

「気持ちよくしてくれたら…俺だって声ぐらい上げるぜ?」

それはとても甘美で恐ろしい…脅迫だ。

「だからお前も声出せよ」

頷くべきなのか、断るべきなのか…

その判断をする前に、つい唇を噛んで声を押し殺してしまった。
ちょうど鳩尾の辺りを、三井の指先が滑ったからだ。

「どーして我慢すんだよ?」

唇の端を持ち上げていたぶるように笑う三井に、宮城は怯えたような目をして見上げた。

なんて答えればいいのか…

でも、それを言葉にするチャンスは、もらえそうにない。











次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ