記念碑

□sugar(7/14宮城side)
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《甘ぇなぁ》
借りた洋画を見ながら親父が鼻で笑った。画面では金髪美女に盛大な愛のコトバをこれでもかと浴びせながら主役の男が美女を押し倒しつつベッドへとダイブして…ってこんなん親と観てるのもどーかと思うケド?
《honeyなんて言ってるよーじゃあ、まだまだってこと》
意味が分からずポカンとしている俺に親父が言った。
《ホンモノなら、honeyじゃなくてsugarさ》
蜂蜜よりももっともっと甘い、砂糖そのものの甘さを醸し出す…それこそが本物の最愛の人だ、と。
そーゆーモンなの?と聞いた俺に
《ま、そのうち判るさ》
俺はちゃーんとsugarを見つけたけどな、とニヤリと笑う親父の惚気にうんざりした。
毎度毎度飽きもせず、よくまぁ子供相手に惚気てられる…結婚してから何年経ってンだよ!この『万年新婚夫婦』が!と心の中で毒づいた。


親がやたらと『記念日』にこだわるから、どこもそんなモンだと思ってた。おまけに2人いる姉達も親の影響からか『記念日』を忘れるようなヤローがどれだけ最低かと散々吹聴する。
だから好きな子が出来たら絶対に全力でイベント事には命を懸けようと心に決めていたのだ。きっとその度に《リョータ君って》と惚れ直してもらえるんだろう…そう思ってた。まぁサンプルが目の前にさんざ横たわっていたワケだし。


「ウラッ」

パスンとタオルで頭を叩かれた。見上げると腕組みをしてふんぞり返る…一コ上の可愛い人

「次はテメーの番だろ!寝ぼけてンのか!?あぁ?」

「…叩かなくったっていーじゃねっスか」

「愛のムチだろ」

「あ〜アンタって俺のコト、
大好きだもんね♪」

「ッバァカ!!」

大きく舌打ちすると長い足で俺を小突く。

「とっとと行ってこい。赤木の血管ブチ切れンぞ」

「そりゃー大変だわ」

立ち上がりすれ違い様にソノ気で腰骨を手の平でなで上げて

「アトでね」

速攻ダッシュしたから、本人曰わく鉄拳(俺に言わせりゃカワイイ子猫の『猫パンチ』)が飛んでくることはなかった。


部活の後にコンビニに寄ってアイス喰いながら帰るのが、いつの間にか日課になった。

「コレ、マズい」

心底ウンザリしたように三井がボヤく。

「アンタ、『新製品』とか『期間限定』に弱いよね」

「だってよぉ今だけとか思うとチャレンジしたくなんね?」

「そいでマズいからって俺の喰うことないじゃん!」

「だって口ン中、マジぃんだもん」

「…口直し、したいならさぁ」

そっと頬に指を滑らせて

「チガウほーが良くね?」

そのまま項を強引に巻き込んで口付ける。舌先で歯列をなぞり促すとおずおずと迎え入れる。舌を絡めて思う様蹂躙すると、堪えきれないと肩を叩く。

「ね?マズくなくなった、でしょ?」

十二分堪能して解放すると、すっかり息の上がった三井は涙の滲んだ瞳で宮城を睨む。

「ざ、けんなっ」

「いーじゃん。誰も通んないって」

そーゆー問題じゃない…と小さくボヤくほんのり赤くなった横顔を見ていると、胸の中がほんわりしてくる。

(カワイイな〜)

脳が沸いてる自覚はある。態度もガタイもデカい上に、まさかの同性で入院騒ぎまで起こした相手にここまで惚れるとは思ってもみなかった。
沸いた自分にも驚いたが、まさかあの三井が承諾するなんて…玉砕覚悟だっただけに未だに信じられない。
今更、やっぱり…などと言われるのが怖くって、少々先走った『お付き合い』に急ぎすぎた分これからゆっくり甘い時間を重ねていきたい…そう思っているのだが、相手が悪い。
世間知らずにも程があるだろ!と逆ギレしたくなるほど、三井は疎かった。自らを『スーパースター』などと薄ら寒くなるようなことを、平然とのたまってたなんて、ちょっとどうかと思う。さぞやモテまくりで選り取り見取りの恋愛経験かと思いきや、よもや手を繋ぐトコから初体験とは驚いた。グレてたから遊びまくってたかと思ったら

『毎日、10時には寝てた』

と、きた。

『だって鉄男が寝ろってゆーしよ』

聞けば、ゲーセンでブラブラしてた三井に

『オメーが《三井寿》か?』

と声をかけられて、いつの間にか鉄男がやってる店(昼はめったに客の来ないサ店で夜はショットバーだったらしい)の手伝いをしていたという。

『いっぱい時間あったからよ。俺、コーヒーとか淹れるの上手いんだぜ』

今度飲ませてやるな、と笑顔で言うから眩暈がした。
不良グループの頭だと思ったから執拗にボコったのであって…まぁ今となってはアレもいい思い出だし。

「さっきっからナニ黙ってんだよ」

「三井サン、可愛いな〜って
見とれてた」

「お前、絶対目オカシーから。ついでにのーみそも」

キシシと笑うトコだって、やっぱりカワイイとかって…そうとうイカレてる。先走ったのは事実だがとりあえずお約束のステップは順番通り踏んだし、なんだかんだ言って拒まれなかったからちゃんと『両想い』だと思うケド…どうにも自分と三井には温度差があると思う。
もうちょっと…こう…ベッタベタの展開に乗っかってくれたっていいんじゃないかと真剣に思う。最初はテレてるだけだと思ったが…宮城が重きを置く『記念日』絡みには全く興味無し。もっと喜んでもらえるとばかり思っていただけに、何だか惚れているのは自分だけと言われているようで切なくなる…

「三井サン、明日、さ…」

「おう、またな」

軽く手を振り、家の中へ入っていく三井に肝心なことが伝えられない宮城だった。
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