駄文

□Melty Kiss
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思った通り宮城に背中を向けて着替えている三井は下唇をギュッと噛んで不機嫌そうだ。

(もっと『上手かった』はずなんだけどな…)

こと恋愛に関して宮城のスキルは相当高くて、同級生達がいつも相談を持ちかけていたのに、湘北に入学してからすっかり影をひそめているのが本当に信じられない。

(てゆーかなんで三井先輩?)

初めて打ち明けられてから何度となく胸の内で繰り返した疑問。殴り合いの末入院までして、退院と共に乗り込んできた曰わく付きの相手を


「好きになったかもしんねぇ」


と告白された衝撃はとても言葉に出来なくて…固まる安田に


「こんな気持ちなったの、初めてなんだよ…どうしよう…なぁヤス、俺どうしたらいいかわかんねーんだよ」


涙ながらに打ち明けられて、思わず告白してみたら?とそそのかしたのは確かに安田で…
あの三井がOKするなんて思ってもみなかった安田は、まさかの展開に振り回されっ放しだ。


「桜木、いーモノあげるよ」


ロッカーのカバンから部活前に、宮城の後押しで最近付き合い初めた彼女からもらった物を一つ取り出した。個包装の包みを破って中身を桜木の口にほおり込んだ。


「?…チョコ?」

「甘い物は疲れが取れるしね。これからまだまだ頑張る桜木にぴったりだろ?天才だもん、居残り練習なんてチョロいよな?」

「あったり前だぞ、ヤス!マカセロ」


得意の鼻歌を歌いながらご機嫌で体育館に向かった桜木に、宮城は中指を突き立てている。


「お先」


露骨に機嫌の悪い声で三井は安田にだけ声をかけた。

(うわ〜やっぱり怖い〜)

背筋にぞわぞわした悪寒が走ったが、安田は一生懸命笑顔を浮かべ


「三井先輩もどうぞ」


と、個包装のままの包みを手渡した。実は甘い物が大好物だというのは宮城から聞かされている。背中にブリザードを背負っていた三井が包みを受け取った途端、パァっと笑顔になった。


「いーのか?」

「もちろんですよ」


安田の返事を聞く前に三井は包みを破いて食べている。


「うわ、旨いなコレ」


嬉しそうに笑った顔がついさっきまでとは別人のようだ。うっかり可愛いかも、なんて思ってしまったのは絶対幼なじみの影響だ。

さっさと着替えを済ませると


「美味しいですか?」


そう言って三井に箱を差し出した。キョトンと箱と安田を交互に見る三井に


「じゃあ良かったら」


笑顔で箱を押し付けた。


「え?」

「これ、あげます」

「いや、そりゃ…」


ムニャムニャ口ごもる三井にソッと近づき、小さく手招きをした。後ろで宮城が睨んでいるのを承知の上で三井に耳打ちする。


「『とろけるような口付け』って意味なんです、ソレ」


三井の手に収まった白い箱に印字されている金色の文字をリズミカルに叩いた。


「え?」

「『バカ』で『ガキ』が迷惑かけてすみません」


ニッコリ笑うと、三井が唖然とした顔で何か言い出す前にサッと身を翻すと、ギリギリと歯噛みしている宮城の肩を軽く叩いて部室を後にした。



*************



『初めて三井サンと手ェ繋いじった』

と浮かれて電話を寄越したのは夜中だった。よっぽど嬉しかったのか、明日聞くよと何度も言ったのに全然聞いてもらえなくて、結局朝まで付き合わされた。

まどろっこしくてなかなか先に進めないでいるから、サッサとヤるのがスマートなんじゃなかったのかと聞いたら信じられないくらい真っ赤になって


「だって三井サン、『付き合ったコト』ねーって言うンだもん…」


そりゃ普通『男』と付き合った経験なんか…とつぶやいた安田に、チガウチガウと宮城が両手を振り回した。


「そーゆー色っぺぇ経験、ねーんだってアノ人」


目を丸くした安田に向かって


「モテてたのはモテてたらしいんだけどさ。ホラ、アノ人バスケ馬鹿じゃん?中学ン時は女よかバスケ〜だったし、高校入ってからホラ…アレだったろ?そんなんで告られたンも初めてだって言っちゃってさ〜」

「…………あのさ」

「何だよ」

「………まさか『チェリー』だなんてこと、無いよね?」


聞きようによってはずいぶん失礼だろうとは思ったが、うっかり口をついて出た言葉は取り消せない。


「……………多分?」

「嘘だぁっ!!」

「ヤ、だってアノ人の性格でフロは無理だって」

「ないないないない!そんな訳無いって!だって三井先輩だよ!?桜木じゃあるまいし『付き合ったコトが無い』なんてありえないよ!!」


全力で否定してしまったが、だってソウ言うんだもんと宮城の方が拗ねていた。

(明日、絶対弁償させてやる)

甘い甘いチョコレート。まだ一つも食べてなかったのに。気前がいいのか、お人好しなのか…多分そのどっちも当てはまるんだろう、自分は…と安田は思った。


「全くドコが『電光石火』なんだか」


校門を出る瞬間、部室の方へ向かって思い切りアカンベをしてやった。

これで宮城の望むように一歩進めたら、きっとまた夜中に電話が鳴るだろう。親に内緒で子機は自分の部屋に持っていかなきゃな…

小さく肩をすくめて、きっと今頃甘い時間を重ねているだろう幼なじみの照れくさそうな幸せいっぱいの笑顔を思い出して、安田は頬を緩めていた。











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