駄文

□mark
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「三井君てモテるでしょ?」


初対面の相手からいきなりそんな風に話しかけられた。


「そんなこと……俺なんかよりアイツの方が凄いですよ」


傍らの椅子に腰掛け目を閉じている流川を指差した。ありゃ寝てんな、と三井は流川を見て思った。こんな慣れない空間でも常と変わらない流川の豪胆とも言える姿に頬が緩んだ。
押し付けるように体を寄せる相手に内心辟易しながらも、それでもどうにか愛想良く答えると、さらに幾人かの女性が集まってくる。


「三井君て肌キレイね〜」

「あら、コレ傷?」

「美形なのに勿体ないな〜」

「結構目立っちゃうわね」

「消せる?」

「多分ね」


それこそ口を挟む隙も与えられず、いきなりメイク道具を持ち出され問答無用とばかりに、宮城が言う所のドーランを塗りたくられた…



**************



あの時宮城は撮影に入っていた筈だ。見てないようで、しっかり三井の動向はチェックしていたらしい。もともと宮城は酷く嫉妬深い所が多大にあって、こと相手が男だと手がつけられなくなった経験も一度や二度ではない三井は真っ青になった。


「ちっと目ぇ離すとアレだもんな…アンタのフェロモンにゃビックリだよ」


舌打ちしながら忌々し気に吐き捨てるように言われ、三井はカッとなる。


「何がフェロモンだ!」

「出してんジャン」

「出してねーよ!!呼んでもねーよっ!見てたならわかってんだろ!いきなり近寄ってきて塗ったくられたんだよっ」

「拒否ってなかったろ!」

「はぁ!?女相手にガン飛ばせってのかよ?」

「女じゃねぇよ!」

「…お前、何言い出すかと思ったら」

「わかってねぇのはアンタの方!アンタに最初に近づいたン、ありゃ男だっつの!!」


キッパリ断言した宮城に、三井はあんぐりと口を開けて目を白黒させた後、小さな声で


「………ウソ?」


と呟いた。

女性にしてはちょっとハスキーな感じの声が宮城っぽいな…とは思ったが、どこからどう見ても女性だったとしか思えない。思い出せる限り、服装も仕草も…アレが男だなんて信じられない。

もしかしたら宮城は過剰なまでの嫉妬心で頭がおかしくなったんじゃないだろうか…?

(ホモな上に頭がイカレてるって…)

何か奇怪なモノを見るかのような三井の視線に、宮城は大きな溜め息をついた。


「あのさ、俺別にイカレてるワケじゃねぇかンね?アンタ気付いてねかったかもしんねーけど喉仏あったし」

「そ、そうなんか!?」

「ウン…チョーカー巻いてたけど」

「チョーカー?」

「首にしてたヤツ」

「はぁ…」

「アンタさぁ、もうちっと周り良く見た方がいーよ…気が気じゃねーよ、俺…アンタのことが心配で胃に穴開きそーなっし。マジで」

「見ろったって…」


どこをどう気をつけろと言うのだろう?


三井は無意識に親指の腹で何度となく顎の傷痕をこすった。
そして覗き込んでくる宮城の視線を避けるように、体に毛布を巻き付けて背中を向けた。


「三井サン?」

「お前さ」


くぐもる声が聞き取りずらくて宮城は後ろからギュッとしがみつくように抱きしめた。


「どーしろってんだよ?」

「え?」

「別に俺、何もしてねーのに」

「…」

「気付いてねーのが悪いって言われてもよ、わかんねーもん。仕方ねーじゃん…」

「えっと…」

「そーゆーのがよ…全部ムカつくって言われたって…俺のせいみたく言われたって…」


腕の中の三井の体が小刻みに震えているように感じたのは気のせいだろうか…?


「三井サン?」

「だったら……だったら、お前」


ヒュッと息を吸い込む音が、した。


「ご、ゴメン!!ゴメンね!?あの、そ、そうだよね?わかんねかったんだもん!み、三井サンが艶っぽいのってコリャどーしよーもねぇってーか自然なことっつーか…じゃなくて!!ゴメン!!あの、あのさ」


確かにブルブルと震える体を力一杯抱き締めながら、宮城は三井が続けようとした言葉を遮るように、パニックに陥りながら立て板に水を流すようにまくしたてた。


「何が自然だっバカ野郎!!」


悲鳴のような声で叫ぶと三井は益々体を丸めてしまう。


「バカにしやがって!!」

「し、してない!」

「ウソつけっ!」

「ウソじゃねーって!!」


強引に三井の体を反転させた。16cmの体格差があっても要領さえ抑えれば、訳なくこなせるのだが、三井は真っ赤になった目をいっぱいに見開いて驚きを隠せずにいた。


「バカになんか、しねぇよ」


とっておきの、三井が一番苦手な…甘い声で―

案の定、みるみるうちに三井の顔が赤く染まり、瞳が揺れるように潤んでくる。


「好きだよ」


囁いて、鼻先にひとつ、キスを落とした。


「ずりぃよ…お前」


ギュッと目を閉じて顔を背けようと身じろぐのを体重をかけて押さえた。


「ゴメンね?」


そう言うと啄むような軽い口付けを落としながら、三井の顎にある傷痕にそっと舌を這わせた。


「アンタのコレ…消されンの見てたらさ…なんか全部否定されたみてーな気になっちまって…アンタが消したいなら…しょうがねぇけど……あんなヤツらが触ってンの見てたら」


それっきり黙り込んだ宮城の背中に三井の腕が回される。

(バカ…ったく)

いつでも見ているようで、肝心な所が見えなくなって。暴走しがちな宮城の情熱の源は紛れもない三井への愛情だから…


「消えねぇし…消す気もねーよ…でも…いつか、いつかコレが無くなっちまっても」


回した腕に力を込める。想いの分を上乗せして。言葉にならない想いも伝わればいいと、三井は願う。
勘の鋭い宮城のことだ。そんな三井の心の動きなど手に取るように分かるに違いない…そんな風に思いながら、自分の肩口に伏せられた宮城の頭にそっと頬を寄せた。










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