記念碑

□闇に 溶ける
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(とりあえずバスケに影響が出ない程度でなら…)


それが三井の返事だったそうだ。
見た目とはうらはらに、実は押し切られると弱いタイプだったらしい。いっつも我が儘三昧の姿しか見ていなかったから結構意外だ、と思った。
さすがに『あの』三井寿に告白するのには多大な勇気が必要だったのだろう。
友人達を引き連れての大々的な告白劇だったとか…



(取り囲まれたら、何にも言えなさそうだもんな〜)



まるでその場に居合わせてたのかとツッコミたくなるような事の詳細さに、宮城は呆れた。

(そういえば俺の時にも居たもんな)

アイツらにはきっと他人の恋愛に対してのサーチ機能が付いているに違いないと本気で思う。



(あの三井サンに、ね〜)



自室のベッドの上で仰向けになりながら、宮城は幾度めかの大きな溜め息をついた。

多分…いや…きっと…自分と三井との関係は変わるだろう。

今までと同じ…ようには、
いかないんだろうな…と思う。


出会いは『サイアク』だった。
もう二度と金輪際、未来永劫関わりたくないし、会いたくない。そう思っていたのも事実だ。紆余曲折を経て、禊ぎのように髪を切ったからといって「はい、そうですか」と打ち解けられるワケがないと、何度木暮に言おうかと思っていたくらいだ。


それなのに………いつの間にか
本当にいつの間にか隣に居るのが当たり前になっていた。

呼吸するのと同じくらいに。

三井の隣に自分が居て。
自分の隣に三井が居るのが。

一緒にバカをやったり…たわいもない話で笑いあって騒いだり…時にはケンカのような口論をしてみたり。

それでもやっぱりいつの間にか隣に居て。

きっともう、そういう事は出来なくなるんだろうな…

(頭、悪ィからな〜アノ人は…)

呆れるくらい要領の悪い三井だから、あれもこれもいっぺんにこなすなんて芸当は望めないだろう。
大体そんな風に立ち回れたなら、2年もバスケから遠ざかってなんていやしない。


 (バスケが…したいです)


 そう言って号泣した、人。


彩子の笑顔が見たいが為だけにバスケをしていた自分がとてつもなく恥ずかしくなった。
あわよくば、自分のプレイに感激して『お付き合い』が始まれば…そんな邪な自分とは真逆の思いを持っている人。
あの涙を目の当たりにして、横っ面を張り飛ばされたかと思った。
ナマイキだとボコられたのも当然だと思った。


アノ人はバスケを愛してやまないのだ。
あんなに純粋にバスケに向き合えたら…
今はただの湘北バスケ部のPGだけれど。
もしかしたら本当に神奈川の、いや全国区のPGになれるのかもしれない…
あの時から、ずっとそう思っていた。


(…三井、サン)


泣き出したいのか、叫びたいのか、走り出したいのか、うずくまりたいのか…

自分がバラバラに砕け散ってしまいそうだから。

胸の中で繰り返し、すがるように何度も三井の名前を呼んでいることを、自分の頬に幾筋もの涙がこぼれていることを宮城は全く自覚していなかった。
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