記念碑
□sugar(7/14宮城side)
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朝から不機嫌さを露骨に隠そうとしないから、珍しいなぁ…と思った。
「リョータ」
ちょいちょいと手招きする。
「なんかあった?」
「何で」
いや態度に出過ぎだし…とも言えず。三井が絡むと本当にわかりやすい行動に出るようになった。平素の人をからかうような余裕が全くなくなるのだ。
リョータと三井先輩が、と聞いた時は正直ビックリしたが2人を見てると、何だかあまりにも『自然体』という言葉がしっくりする。
だから自分だけはずっと応援しようと決めたので、体育館の壁際でちょこんと体育座りをしながら、とりあえず愚痴を聞いてやろうと思ったのだ。
「なんとなく」
チェッと頭をかきながら俯いた。
「リョータ、イベント好きだもんね」
「フツーだろ…別に」
「そおかなぁ?」
さりげなく三井に視線を送ると、こちらもやっぱり不機嫌そうにコッチを見てる。
「朝から人のケツに蹴り入れるしよ、昼は屋上にいねーし」
「気付いてないだけだと思うんだけどなぁ」
「ソコが問題なんだっつの」
汗を拭う振りをして、頭を抱える幼なじみがちょっと気の毒になったので…
「思うんだけどさ」
「?」
「リョータって『記念日』したいから、三井先輩と付き合ってんの?」
「え?」
「別にさ…こだわんなくったって、いいんじゃない?」
安田の言葉に目を見開いて凝視してくる。
「リョータんちがイベント好きなの、知ってるけど」
勿論あのお姉さん達の有り難い忠告は安田も散々聞かされている。
「ソレに振り回されてるのってどうなのかなぁって」
「…」
「おじさん達もさ、初めはあーじゃなかったと思うんだ。上手く言えないけど」
「嬉しい事が増えてくるから『お祝い』したくなったんじゃないかな?」
「彼女も居ないのに偉そうだったらごめん」
ニッコリ笑って宮城を見る安田の目は優しい。
「………ヤスってスゲェな」
とにかく頭に血が上りやすくて何も見えなくなる自分を、いつも穏やかに諭してくれたのは安田だった。やんわりとした安田の口調と笑顔は、どんな時でもすんなり心と頭に届く。
「1on1は勝てないけどね」
「ソリャ一生勝てないから」
「えぇ!?一生?」
「そー、ヘヘッ」
「ひどいな〜これでも頑張ってんだよ?」
「バスケじゃ負けねーケド」
ニヤリと笑う宮城がいつも通りだったから。
「ヤローとしてのウツワは互角にしとく」
「なんだよ、それ」
顔を見合わせて、ハードな練習中には不似合いな笑い声を上げた。
すれ違ってばっかりで、自分にとっては『大事な日』だった
1日が終わる。気付かれないように横目で伺うと、何が気に食わないのかずっと唇がとんがってて…そういえば今日はまだ
一回もちゅーしてないなぁと思った。
いつものようにコンビニに立ち寄ってアイスを買う段階で三井が居ないことに気付いた。
慌ててアイスを買って、とりあえず逆走してみれば、道のド真ん中で…
「全く…いないと思ったら、なに泣いてんの」
ハッと小さく息を飲んで、涙でグショグショの顔を上げる三井サン…やっぱりカワイイな〜
ヘラリと頬が緩む。何だか自分のグチグチした悩みなんかどーでも良くなってくる。
「はい、デザート」
甘いアイスが溶けないうちに
「一緒に食べよ?」
じんわり新しい涙を浮かべて…
「!」
甘い甘いアイスより、とろけるキスが降りてきた。
きっと三井はわかってない。
今日が自分と彼の日だと、自分が思っていたことを…
今はまだ『honey』な彼が、
きっと必ず『sugar』になる。
その時、絶対今日この日の話をしてみよう。
砂糖そのものの甘さを醸し出す三井の言葉が楽しみだ。
きっと今日のキスよりも、甘い時間を委ねてくるに違いない。
終