記念碑

□甘く、溺れて
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揃いも揃ってワーカホリックだ、と実の息子に揶揄される宮城の両親は、今日のような日でも帰宅していないらしい。
腕を掴まれ、合間合間に口付けを与えられながら宮城の部屋へと連れて行かれる。
当たり前のようにベッドに連れ込まれてのしかかる宮城に

「待てっ…て」

かすれた声で告げても聴く耳を持たないと言わんばかりに、熱い舌と唇で耳朶を執拗に舐られる。

「みやっ、ぎ!」

悲鳴にも似た三井の訴えに、ようやく宮城は半身を起こした。

「どーかした?」

「お前っ…欲しいもんとか…」

「今は、アンタが欲しいカモ」

いつものように口角を引き上げて笑む。
そうじゃない…告げる筈の言葉は形にならず、気付いた時には手馴れた仕草で服を剥ぎ取られ、宮城の手で快楽の海へと放り出された。
…いつもそうだ。
宮城は三井に何も要求しようとしない。
あえて言うなら、カラダだけ。

付き合いたいと言い出したのは宮城のほうだ。
彩子への思慕を判っているから頭ごなしに取り合わないスタンスでいたはずが、何度も情熱的に口説く宮城の熱心さにほだされ、流されるように付き合いだした。
そして三井は宮城がいつの間にか自分の心の中に深く入り込んでいることに気が付いた。
引き返すことも出来ない程に、取り返しのつかない場所へ。
ソレが正しいことだとは思えなかった。
熱く自分を翻弄した翌日でさえ、宮城は常と変わらず彩子の名前を甘く呼び、晴れやかな笑顔を向ける。
苦々しい想いが『嫉妬』だと気付いた時には、もう後戻り出来ない所に宮城が居て…

『  』

たった2文字の言葉ですら、意味を持たない記号の羅列であるかのように、深い場所に巣くうたぎる感情を持て余す。
そんな三井の気持ちとはうらはらに宮城は三井にカラダ以外求めようとはしない。

伝えたいのに…

伝えられればいいのに…

言葉さえ求めようとしない宮城に戸惑い、本当は宮城にとって必要とされていないのだ、と確信した。
宮城が手に入れたいものを差し出すことは出来ないのだ、決して…自分では。

「帰る」

「今から?」

「あぁ」

軋む体を奥歯を噛みしめることでやり過ごす。緩慢にならざるを得ない動きでベッドから降り衣服に手を伸ばす三井の背に

「遅くなったンで、今日は泊まってもらいますって、電話しときましたよ?」

軽やかな声がかけられる。
三井は返事もせずに、床に脱ぎ捨てられた衣服を拾い上げる。
何が欲しいか、ねだってもらおうなんて。誰よりも一番先に祝い、プレゼントをあげようだなんて…おこがましい自分が滑稽で。そんな自分を笑い飛ばすことさえも出来ない三井の胸がツキリと痛んだ。
宮城は自分に何も期待していない。言葉すら、求めようとしない。そのことがこの上なく悲しかった。
昨夜の行為は自分の限度を超えていたようで、時々痛みすら走る節々を騙しながら身支度を整えると、ベッドヘッドに体を預けて黙って自分を見つめていた宮城を見下ろした。

「じゃあな」

声が不自然に震えた。宮城は返事もせず、ただ少しだけ顔をゆがめた。

「三井サン」

踵を返してドアヘ向かおうとする三井の動きを制止させる宮城の声。ドアノブにかけた指さえも動かせない。
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