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□2012 初詣
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「なんでお前着物きねーんだよ!」
亮が寮から出てきたアタシを見るなり毒づく
「だって……」
と口ごもっていると晃がすかさずアタシの肩を抱いて至近距離から見つめてくる
「かわい〜けどね、このフード付きコートも♪」
啓一朗が黙って晃の腕をアタシから離してくれた
ジャンパーのフードをすっぽり被った佑がアタシの前にくると、アタシにもフードをすっぽり被せてにっこにこの笑顔
「俺とお揃い〜〜」
と真正面からアタシの顔を見て「マジかわい〜〜」っていうから、アタシは照れ隠しで笑う
「ほら、亮見てみろよ、着物きててもきてなくてもかわい〜ぞ」
佑にそういわれて亮が首を傾けてアタシの顔を覗き込んできた
フードの中であごを引いて上目で見上げると、亮がちょっと驚いた顔
「ま、まあ……」
「まあ……かわいい?」と亮に聞くと、今度は一転眉間にしわを寄せられて
「まぁるい顔って言いてーんだよっっ」
「丸い顔っっ!?もう〜〜、亮っっ!!」
ベシベシ亮を叩きながら追いかけていると梅さんと零が最後に寮から出てきた
「元気ねえ」
と梅さんはイヤーマフにマフラーに手袋にホッカイロと完全防備
零も寒そうに眠そうにめんどくさそう……
「よっしゃ!初詣に行くぞ!」
と佑は(エイエイオー)とは言わないけれど気合十分
歩きながらアタシが手をハーハーと温めていると、いつの間にか横に来ていた零が
「手袋は?」と聞いてきた
「うん、手袋取ったりつけたりしてる内になくしちゃいそうだから……」
「取ったりつけたりしなきゃいい」
「だって、たこ焼き食べたり、スーパーボールすくったり、焼きそば食べたり、焼きトウモロコシ買ったり、あ、もちろんお賽銭出す時も手袋外すでしょ?」
「……まるでお賽銭はついでみたいだな」
「そ、そんなことないもん!零だって、りんごあめ買うつもりでしょ?」
そういいながらまた手をハーハーしてゴシゴシこすっていると、零がアタシの片手をとって一緒に自分のコートのポケットに突っ込んだ
「お賽銭よりりんごあめだな」
って零が言うから、アタシは横を歩く彼を見上げてフフッと笑った
斜め前を歩いていた晃がこっちを振り返るとあきれ顔
「ほんっと、零はいいとこ持っていくよね〜
反対側の手は俺が温めてあげますよお姫様」
と晃がアタシの反対の手をやさしくとって、一緒にダウンジャケットのポケットに入れてくれた
神社が近くなってくると、露店がチラホラと並び始めて……佑と亮のテンションがあがっていくのを見ているとアタシも自然に上がっていく
行列ができているベビーカステラ
子供がたむろしている綿あめ
だるまが並んでいて、破魔矢が売っていたり……
「何お願いするの?」と晃に聞かれて、う〜んと考えていると亮が振り返って
「やせますように、だよな〜」と意地悪を言う
「そ、そんなにアタシ顔丸い??」
両手を繋がれているから顔が隠せなくて、妙に恥ずかしい
佑は「違うよな、食べても太りませんように、だろ?」と言ったけど……
結局それって……
「俺はそうだな〜、好きな子が俺の事好きになってくれますように、カナ」
晃はそういいながらポケットの中のアタシの手をぎゅっと握ってくる
啓一朗は額をおさえながら「お前ら、今年は受験生だろ……もっと現実を見ろ」と神社の境内を指さすからみんながそちらを見ると“学業成就”のお守りがたくさん並んである
「ここの神社は勉強の神様だものね〜」と梅さんが言った
亮と佑と晃と、ついでにアタシもひきつった笑いをしていると零はしたたかに言い放った
「そもそも、受験生になれるかどうかもわからないだろ」
「なんだと!行く大学がねえとでも言いたいのかよ!」
案の定亮がそれに乗っかったけれど、零はしらっとした顔
「そうじゃなくて、進級できるかどうかが問題だ」
その言葉にびくっとしたのはアタシも一緒
砂利道を歩いて、お手水で手をゆすぎ、石段を上がっていく
全員が順番にカランカランと鈴を鳴らし、チャリンチャリンとお賽銭を入れて、パンッパンと柏手を打つと
アタシの背後から「顔が丸くなくなりますように」と亮の声が聞こえてきた
「……アタシのためにどうも」
更に佑が「食べても太らない体をください」とお願いしてくれている
「……はいはい、ありがとね」
「すきすき同士になれますよーにっ」と晃は声に出してお願いしちゃってるし……
零が「で、結局何をお願いするんだ」とアタシに聞いている横で啓一朗がまじめに目をとじて長々と祈願している
「おっまえ、ちゃんと痩せるように自分でもお願いしろよ!」
「頭がよくなるようにお願いしろ!」
「女らしくなりますように、よね!」
「だったら、胸がでっかくなりますように、だな!」
「胸だけじゃだめだ、腰もくびれろ!」
「ケツももっと丸くだ!」
次々に言われて、誰が何を言ってるのか……
っていうか、失礼すぎるッッ!!
「う!うるさいな!!そんなことお願いしないもん!
やさしくて素敵な男性に出会えますようにっっってお願いする!!」
と半ば投げやりにパンパンと手を叩くと、その手をぐんっと引っ張られた
「ちょ、零……引っ張らないで」
「りんごあめ、買いに行く」
「へ?」
亮が反対から手を引っ張って「お前、たこ焼き食いたくねーか?買ってやるよ」と焦った顔
「な、何よ、ちょっとみんなして引っ張らないでっっ」
と神様の前ですったもんだしていると、聞きなれた低音ボイスが聞こえてきた
「なんだお前、いい男に出会いたいのか
なら心配するな、とっくに俺に出会ってる」
……この声は……
「由紀!」と梅さんと亮の声が重なった
「よぉし、てめーら、俺がお年玉代わりに学業成就のお守り買ってやるよ
さあ来い!」
先生はアタシがずっとかぶりっぱなしだったフードをぴっと引っ張って顔を出すと、アタシの肩をぐわし!と抱いて歩き始める
そ、そんな……
ちょ、ちょっと……
「待って、アタシまだ、お願いして……ないっっ!」
「お前の願いはすでに叶ってるから大丈夫っつったろ」
先生に断言されて、反論すらできず
その後露店を楽しんだ……2012年のお正月
今年もアタシは波乱万丈の予感です
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