短編

□涙の訳は。
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「孝宏ぉ、たーかーひーろーってばー!!!」

「...んー。」

最近、俺の呼び掛けに
対して上の空な孝宏。

げっそりとしていて
いつになく薄い(そう、
細いのではなくてなぜか薄い)

うーん...やっぱ仕事で
疲れてるんだろうなぁ..。

「孝宏さ、そんなに仕事が
立て込んでるん???」

「んー・・・まーねー・・・」

「今日はせっかく久々に
飲みに来たんだからさ、
パーッと飲んで楽しもうよ」

そう、最近は仕事で
一緒になる事はあっても
その後の予定が全然
合わなくて今日は
久々の飲み会だった。

「ホントは鳥さんとか杉田も
誘おうとしたんだけど
皆予定がバラバラでさ、
孝宏だけだったんよ
ごめんなー」

「いや、全然構わないさ」

やっと孝宏がまともな
反応を返した。

そして俺たちは
飲めるだけ飲んだ。

でも、泥酔したのは何故か
孝宏だけだった...

俺は孝宏を家まで
送った。

いつもは俺が
送られる側なのにな...

俺は孝宏の部屋の鍵を
鞄から抜き取って
家に入った。

孝宏を部屋に入って
すぐの所にあるソファーに
ゆっくりと寝かせた。

「なあ、孝宏、お前...どうしたん???」

普段はうまく配分して
ここまで酔わないのに...

「んんっ...」

「ん、孝宏、苦しいんか???」

しょうがないから
シャツのボタンを外してやる。

3つ程外すと、綺麗な
鎖骨や喉仏が見えた。

見とれていると、
突然腕を掴まれた。

「孝宏???どうしたん??」

「けんいち...」

孝宏が
普段は聞けないような
甘く掠れた声で呟いた。

不覚にもその声に
ゾクゾクしてしまう。

俺は男だが、孝宏の声が
大好きだ。

高すぎず、低すぎず、
中低音の甘い声だ。

よくBLのドラマCDなんかで
共演すると、
俺があの孝宏にしては
低い声で攻められる。

マイク越しに聴くのに
慣れてたから、
こうやって聴くと
なんだか変な気分に
なってしまいそうだ...

ん、変な気分???

その瞬間、
孝宏が起き上がった。

「た、孝宏???」

孝宏の少し赤い顔に
純血した色っぽい目で
見つめられる。

眼鏡越しとはいえ、
その視線に俺の心臓が
ドクンと高鳴った。

そして....

抱き締められた。

「え、ちょ...」

「けんいち....」

耳元で甘く囁かれる。

なんでだ。
聴き慣れている声の
はずなのに...

しかも、孝宏は男だ。
なのに...

俺自身がパンパンに
はりつめていた。

孝宏がそれに目敏く
気づいて、また甘い声で

「感じてんの???」

なんて囁いてくる。

「んな訳ないやろっ!!!
なぁ、孝宏、
お前酔ってるんやからさ、
ちゃんと寝とけ...んっ」

孝宏が...キスしてくる。

おいおい、ちょっと待て!!
俺も孝宏も男やろっ!!!

「んっ...たかっ、ひ...っ」

舌を激しく絡めてきて、
息が辛い。

どうしたんだ、孝宏も...

感じている俺も...

「んんっ....はっ」

孝宏がやっと口を離して、
俺を熱っぽく見つめる。

「孝宏...酔ってるんやし
しかも俺は男やで???」

「ん...」

「あとで思い出したら...
お互い気まずいやろ???」

「・・・・・・・・。」

「人違いしとるんやろ???
どっかの女と...」

そう言った瞬間、
俺の胸がズクンと疼いた。

あ........れ......???

「と、とにかくっ!!!
ちゃんと酔い覚ませやっ」

そういって俺は部屋を
飛び出そうとした。

でも...孝宏が凄い力で
俺の手首を掴み、
寝室に引き摺り込んだ。

ドサァっ....!!!

俺はそのままベッドに
押し倒された。

「な、何すんねやっ!!!」

「何って...判んない??」

孝宏はいつの間にか
酔いが覚めていて、
真面目な顔で俺を上から
見つめていた。

でも行動がおかしい。

孝宏は俺の手首を
力強く掴んだまま顔を
近付けてきた。

「な、たかひ...っ」

またキスをされる。
しかも、さっきよりも
執拗なキスだ。

凄い力で、
引き離すことができない。

「―――っは!!」

俺の唇からやっと孝宏の
唇が離れたと思ったら
そのまま俺の首筋に
唇を寄せた。

そして痕をつけるように
強く吸った。

「んあっ...」

無理矢理されているのに
感じてしまう。

「っは...健一。」

唇を離して、俺に優しく
声をかける。

「はぁ、はぁっ....
なんやねんっ」

孝宏、素面なのに
なんでこんなことを...

「ここまで来たら、
もう取り返しつかない。
でも...俺はもう...」

凄く辛そうな顔で
言葉を選びながら俺に
なにかを伝えようとする。

「俺は...お前が好きだ」

なんとなく予測ができた
言葉だった。

孝宏が真剣な顔をして
俺に降り注いだ言葉。

なぜだか...嫌悪感は
全くなかった。

「健一...ごめん。」

「えっ...???」

「...ごめん」

そう言って俺から
離れていく孝宏。

「帰れば??」

「・・・・・・・・・」

「今日の事は...忘れて」

俯きがちで冷たく
言い放った孝宏。

そんな孝宏を見て、

・・・・・・・・・・・・・・

そこからは俺の体が
言うことを
きかなくなっていた。

「・・・あっ、健一???」

俺は気付けば孝宏を
抱き締めていた。

口が・・・勝手に動く。

「忘れられる訳が
ないやんけっバカヒロっ!!!
好きなヤツからこんな事
言わ...れ、て...」

俺は今、

何を言っている???

「けん、いち...???」

孝宏が俺の言葉に驚いて
固まっている。

まだ口が勝手に動いてる。

「孝宏に触られて、
俺はすごく感じてたよ...
大好きだから...
酔った勢いだと思ったら
悲しくなった...」

涙が勝手に溢れてきた。
頬がびしょびしょに
濡れている。

「・・・・」

俺は
黙って抱き締めていた
手をほどき、向き合った。

「孝宏...俺は好き...」

なんで泣いてるんだ、
俺は。

そんな俺を孝宏が優しく
抱き締めてくれた。

「健一・・・」

「お、俺っ、なんで泣いてん
やろなっ!!こんなん...アホみたいや...っ」

やっと我に返った。

でも...涙が止まらない。

「っ、なんでやろ・・・っ、
涙が・・・止まらへん・・・っ」

すると孝宏が
無言で俺を抱き締め、
子供をあやすかのように
背中を優しく叩いた。

「...健一。なんで涙が
止まらないか、教えて
あげよっか...??」

「・・・・・・。」
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