頂き物(小説)

□改めて分かるモノ
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遠野夢輝様へ相互お礼文



「レンなんて大っきらい!」

「俺も大嫌いだよ、リンなんて!」

そういってお互いに顔を背けた。リンはそのままいかにも怒っていることをこちらに知らせているようにわざと大きく足音を立て、リビングを出て行った。自分とリンの他誰も居ないため、残るのは沈黙。リビングで一人立っていた。

『レン、ここ教えて!』

先ほどまでリンと一緒に仲良く話していたのに。
力なく俺はリビングのソファに座った。寝転がってみたり、色々試したけれど何をしても心の中のもやもやは晴れなかった。どうしてこうなったかと言うと、時は少し遡る。










「レン、ここ教えてほしいんだけど…」

「どこ?」


「ここ!」

それはとても簡単なことだと思っていた。少なくともその部分を何回もソロの歌で経験している俺は。

「はぁ?ここくらい分かるだろ。」

「分かんないから聞いてんじゃん。」

「これで何回目の歌だと思ってんの?そろそろ覚えろよな…。これは、」

「…よ。」

この時点でリンの声に違和感を感じたことにまだ気づいていなかった。


「え?」

「何よ…、何よ何よ!!」

「な、なんだよ…」

「レンには簡単でも、リンには分からないの!普通に教えてくれていいじゃん!」

「だから教えるだろ!」

「じゃあ最初から教えてくれればいいじゃん!レンは頭いいから分かるんでしょ!」

「なっ、俺だってちゃんと勉強してるから分かるんだ!」

「どーだか!」


リンの吐き捨てるような言い草に自分がイラつくのを感じた。いつもならこちらが抑えて喧嘩まで至らないのだが、今日は無理だった。

「リンと違ってちゃんと勉強してるから分かるんだよ!リンも分からないなら自分で勉強しろよ!」

その言葉を言った後には既にリンの表情は見えなくて、急に冒頭の言葉を言われ、今に至る。

「……はぁ。」

先ほどから出るのはため息だけだった。自分が悪くない、と思っているわけではない。けれど最初から俺に頼るリンもどうかと思う。しかし悪いと思っていても、どうでもいいプライドが邪魔して謝罪をしに行けないのだ。おそらくリンは自室にこもっている。けれどどうにもそこへ足が向かなかった。

「…。」

しかし自分のことを責める人も慰める人も誰ひとりとしていない。あるのは静かすぎる空気。ふと床を見ればリンの持っていた楽譜が散らばっていた。とりあえず散らかっているのはあまり良いとは思えないので楽譜を集めて、気づく。
その楽譜にはオレンジ色のペンでたくさんの書き込みがしてあったのだ。3枚ある楽譜で真っ白い楽譜なんて一つもなかった。すべてがオレンジ色に染まっていた。これは誰にでも分かる。この曲をどういう風に歌うのか。どういう感情をこめて歌えばいいのか。それを考えて、結論を出して書きこんでいく。そして自分だけの楽譜が出来上がり、いい歌が出来る。
つまりちゃんとリンは勉強していたのだ。けれどどうしても分からないこの部分があって俺に聞いてきたということ。俺にとっては簡単なことでもリンにとっては容易ではなかったのだ。
俺は試しにマスターに通信を繋げ、聞きたいことを聞いた。それはこの部分はリンにとって初めてのものだったのかを。そうすれば

『そうなんだよね。頑張って勉強してきます!って言ってたけど…無理してないといいな…』

と返ってくる。そのままいてもたってもいられなくなって、俺はリビングを出てリンの部屋へ向かった。ちゃんと手にはオレンジ色に染まった楽譜を持って。































「リン!」

名前を呼んでも返答はない。基本怒っているときはこうだ。それを分かっているから続ける。

「楽譜、見た。リンもちゃんと勉強してたんだろ?…勉強してないとか言ってごめん。」

リンと俺の距離を隔てている扉に手を置き、言い聞かせるように言う。

「リンもちゃんと調べたんだろ?でもどれだけ調べても分からなくて俺に聞いたんだろ?」




こと…



部屋の中で何かが動いた。おそらくリンがぴくりと反応したのだろう。そのことに少しだけ安堵をしたのか口元がふっと緩んだ。けれどまだこの扉を開けてもらってはいない。そのまま言葉をつづけようとした時

「あ、やばっ!」

「え?」

突然部屋からリンの焦った声がしたかと思うととても大きな物が落ちる音が耳につんざくように聞こえてきた。

「り、リン!?おい!」

しかし大きな物の音がした後リンの声は聞こえず、一気に冷汗が流れ落ちた。リンの安否が心配だった。仕方ないと思い、俺は少し後ろに下がると

「ごめんね、メイコ姉!」

家を管理している姉に謝罪しながら、扉を勢いよく蹴って無理やり蹴り開けた。

「ひゃっ!」

だが、そうすればまたもリンの声が聞こえた。その声が聞こえた方をみればすぐ下に白いリボンが少し傾いている頭に手を置いているリンが居た。体はどうやら先ほどの音であろう、崩れ落ちていた本に埋まっていた。

「うわ、ごめん!」

この位置に居る限り、先ほど蹴り開けた扉がすぐ傍を抜けていったのだろう。きっとこの本に埋もれているということは身動きが取れなかっただろうから。そのまま何とかリンを本の山から救出する。扉が当たってなくてよかった。

「…大丈夫?」

「……多分。」

しかしそれでもやはり体の節々は痛むようで自分の手で撫でている。そっと痛みそうな所に触れて撫でれば、リンは最初びくり、と震えたがそのまま撫でられるままに黙っていた。

「…楽譜。」

差し出したらリンはすぐさまその楽譜を取ってぎゅっと握りしめていた。少しだけ楽譜にしわがよる。

「…本当ごめん。」

そうしてリンを優しくひきよせ、自分の手を回した。やはりリンは一瞬震えたが、特に抵抗することもなく俺に体重を預けてきた。そしてぽつりと呟くように言う。

「リンの方こそ…ごめん。レンだって頑張っ
てるのに…」

「俺の方が悪い。リンもちゃんと頑張ってたんだから。」

そう言えばリンはもそもそと体の動きを変えた。離れてしまうのだろうかと一瞬感じた
が、そうではなかった。そのまま俺の方を向いて、顔を俺の胸元あたりにうずめ、ぎゅっと俺に手を回した。

「…やっぱりレンの傍が一番いいなぁ。…嘘ついてごめんね。本当は大好きだよ。」

不意に聞こえたリンの言葉は油断していた俺を赤くさせるのには十分すぎる意味を帯びていた。なかば衝動的に手を動かす。

「俺もリンの傍が一番いい。」

そういって顔をうずめているリンを外して、顎を固定した。息がかかるほど近い距離で同じ色の瞳が交わる。

「俺もリンのこと大好きだよ。」

そうして唇に優しく触れた。その唇はとても柔らかく、甘かった。リンは目を見開いて俺を見ていた。しかし俺が少し笑うと、リンもつられるように笑った。

「「仲直り」」











それは俺たちがマスターの元へやってきて初
めての喧嘩で、仲直りだった。














*******
なんか微妙なお話になってしまい申し訳ありません…。
リクエストにお答えできたか不安ですが、僭越ながら捧げさせて頂きます!返品可なのでいつでもどうぞ!

それではこの度は相互リンクをありがとうございました!!
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