“拝啓、早苗さま。”
書き出しは、実にスムーズだった。
早苗って良い名前だよなぁとかほくそ笑みながら、ボールペンを1回転させる。
拝啓、早苗さま、拝啓、早苗さま…と口の中で3回くらい呟いて、その後に次ぐ言葉を捜す。
“こんにちは、お元気ですか?俺は元気です”
5回程違う文面で書いては見たが、なんとなくしっくり来なくてそれは全てゴミ箱の中だ。
伝えたい気持ちは、たった一つなのに、そこへ行き着くまでが難しい。
勉強机に突っ伏して、もやもやと高まる気分を鎮める。
本棚に納めきれず机の脇に山のように詰まれた参考書の、一番上に置いてあった辞書を手に取った。
迷わずに「こ」で辞書を引く。
【恋文】愛を告白する手紙。ラブレターとも言う。
そっけない活字を見つめながら、さすがに書き方までは書いてないか。とひとりごちて溜息を吐く。
辞書をぱらぱらと斜め読みしながら、思考は脱線していった。