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冷凍保存
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気がついたら、堅くて冷たい床の上だった。

こんな場所、生きていた時には見たことがなく、まるで真っ白な電話ボックスにでも閉じ込められたみたいだ。
床も壁も真っ白でつるつると、陶器のよう。いわゆる近未来的な物質で作られているのだろうか。


自問しながら目だけを動かし辺りを見回した。
真っ白な壁に覆われた部屋は、昔歴史の教科書で見た電話ボックスを一回り大きくしたくらいのスペースしかなく狭い。窓も扉も何もなく、あるのはただ圧迫感のみ。


昔はもっと広い家に住んでいたはずなのにな、と苦笑して、記憶の断片を探った。
ここが天国ではなければ、俺の目論見は成功したといえよう。
同時にズキンとこめかみが痛むが、それを押さえるはず手のひらは動かない。
久し振りに脳みそを使ったからか、とにかく頭が痛くて、体が重かった。
部屋の中をうろつこうにも未だに体の接続が上手くいっていないのか、自分の手のひらも、首ですらうまく動かすことが出来ない。


俺は今、一体どんな姿になっているのだろうか。

冷凍保存する前に、自分のブロマイドと理想の顔の写真を提出したはずだが。
顔を見ようにもこの部屋には鏡すらない。

ブ男になっていなきゃ良いけど。とひとりごちる。
どちらにせよ俺の生きていた時代と今――西暦何年かは検討もつかないが――の時代の美意識が変わっていなければの話だ。

そもそも、初めて脳の冷凍保存が一般的なサービスとして売り出されたのは俺たちの時代からだった。
売り出された、といっても一般市民にとっては、手に届かない程の大金が必要だったが。

簡単に概要を言えば、脳の神経は統べて残したまま、特殊な装置で瞬間冷却される。
その時点では、脳の解凍処理はあまり上手く行かなかったようだが、すでに動物実験では何度も成功していた技術で、人間に適用されるのもそう遠くないと思われていた。


大枚はたいてわざわざ体を捨てた俺を、回りの人間は嘲笑した。
俺も正直言えば、冷凍保存なんてする気はなかったのだ。

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