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拝啓、早苗さま
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自分の中ではかなり綺麗に書いたつもりの文字を見つめながら、こんなんじゃ、手紙にする必要はないと苦笑する。だいたい色んなことをすっ飛ばしすぎている。
そもそも、なぜラブレターなのか?そう思う読者もいることだろう。

それはまぁ、あれだ。いうなれば、この電子機器が発達したご時世にあえて手紙という古典的かつハートフルな方法によって、彼女の気持ちを高め成功率を上げるという計算しつくされた目論見がある。

…まぁ正直言えば単に直接言う勇気がないだけだが、(だって早苗さんの瞳を見たらとてもいえない)
吟味した文章は口で言うより失敗も少なく上手く想いを伝えられるとは思う。
今書いたのは吟味とはあまりいえないけど。

書き始めてから、既に3時間は経過しているが、吟味した文章はまだ3分の1も書けていない。
別にラブレターなんだからいつ書いたって良いだろうと思うだろうが、そういうわけにもいかなかった。

明日、朝いちで渡さなければならない。
正確に言うならば明日の7時15分から、駅に着くまでの間に確実に任務を実行しなければならないのだ。

なぜならそれは今日の朝、いつも通りに早苗さんと駅まで一緒に歩いていた時だった。
早苗さんは言いにくそうに、最近会社の中で異動があり、出勤の時間が少し早まるから。と切り出した。
そして、今までどおり俺と一緒に行けなくなると、寂しそうに(まぁ俺の思い違いかもしれないけど)笑っていた。

その最後の日が明日なのである。明後日からはもう会えなくなってしまう。
俺の唯一の癒しだった朝の時間。どうしても会えなくなる前に、なんとしても伝えなければならない。

俺はかぶりを振って、脱線した思考を頭の隅においやると意を決してボールペンを握り締めた。
新しい便箋を取り出すと、文字を紡ぐ。

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