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中二病
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もちろん、嘘なんかじゃない。
この現代に吸血鬼なんてナンセンスであると笑われそうだが俺は至って大真面目である。


その吸血鬼はいつも真っ黒な服で身を包み、保健室で生徒の手当てをしている。
そう。うちの学校の保険医は吸血鬼なのだ。

もちろん女医であるからして、男子生徒の人気は絶大だ。
その女医は腰くらいまである緩くパーマのかかった栗色の髪を後ろで一つに束ねていて、大きな目に通った鼻筋、ぷっくりとした唇に口許の取ってつけたようなほくろ、そして特徴的な八重歯――所謂美人である――さらにむせ返るような色気を持っていた。
もちろん巨乳だ。

だからうちの高校では怪我をする男子が後を絶たず、なかでも指などの切り傷に関しては舐めて治してもらえるといういささか信じがたい噂までたっていた。

今思えばそれも全て納得のいく噂だったと感じざるを得ないが今は置いておこう。


とにかく俺はその女医に噛まれたのである。恐らく悪友にそれを言ったところで羨ましがられるのが関の山だろう。
事態はそんな流暢に笑っていられるほどのんびりしていられないのだが。


事の始まりは一週間前の清掃運動の日だった。うちの学校では月に一回、児童の美意識と心と体を鍛えるという名目で全校生徒で大そうじする日が設けられている。
いつも使っている教室はもちろん、廊下にトイレ、職員室、体育館、校庭、花壇、ありとあらゆる場所を班に分けて清掃する。

今回の班分けで、俺は最悪なことに花壇の清掃担当になってしまった。

花壇の清掃担当というのは、その名の通り花壇を清掃する業務のことだ。枯れた草や花、雑草などを鎌で刈り取り一か所に集める。

内容だけ聞けばそんなに大変そうではないが、実際には花壇の数が多く、雑草に混ってツタが花壇やら校舎の壁やらを覆っていてそれを全て取り除かなければならず、清掃運動の中でもワースト1の人気である。

しかも俺はジャンケンに負け、謀ったようにツタの担当になってしまった。

学校のだっさいジャージに軍手を左手にはめ右手に鎌を持った戦闘スタイルで俺はまず花壇のツタから刈っていくことにした。

掴んでは刈り、掴んでは刈り、掴んでは刈る。
ツタがたまって来たら他の雑草が集められている場所へツタを運び、また掴んでは刈った。
同じ作業を淡々と続けているうちに心に隙が生じたのか、7回目にツタを掻き集める時に右手に痛みが走った。


慌てて手元をみれば特に目立った外傷はないが指先に違和感がある。
右手の人差し指をよくよく見れば、小さな赤い点がぽつんと表れていた。

仕事もせず立ち止まる俺に、悪友は後ろから覗き込んだ。

「どした?」

「いや、なんか痛くて」

どれ、と言って悪友は俺の人差し指をとってまじまじと眺める。

「棘でも刺さったんじゃねーの?」

俺の顔と指を交互に見比べながらそう言って、それに続けるように――今思えば恐ろしいセリフを――言った。

「保健室いって来いよ」






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