うたプリ

□来栖薫の憂鬱
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翔ちゃんが身支度を整えている間に、僕も十分の準備に取り掛かる。
まず前髪のわけ目を逆にして、赤いピンで右に方をを留める。
僕は翔ちゃんみたいに器用じゃないから上手には出来なかった。
服は翔ちゃんがきそうな服装を選ぶ。
最後にアクセサリーを腕に通す。
これで完璧。


「薫ー、今日の晩御飯だけど……って、お前それ……」


何かを言いに僕のところにきた翔ちゃんは、僕の格好に驚いていた。
だって、今から僕は翔ちゃんになりきるんだもん。
これぐらいしないとばれちゃうよ。
相手からすれば目の前には自分の顔が二つあるように見えるだろう。


「ああ、この格好?凄く似合ってるでしょ?」


僕は何も分からないように惚けた仕草をする。
翔ちゃんは僕の行動の意味が分からずに混乱している。


「そうじゃなくて!なんでお前が俺の……っ、何だ……?急に、意識、が……」


僕に反論しようとしていたけど、翔ちゃんはいきなり眠ってしまった。
これも僕の仕業。
朝食の中に催眠薬を少しだけ入れた。
いいタイミングで催眠薬が利いてよかった。
そして10時。
時間通りにインターホンが鳴る。


「翔ちゃーん!迎えに来ましたよぉ」

「今行く!」


翔ちゃんを抱き抱えてソファの上に横たえる。
机の上にはメモ書きを一つ書き置きしておいた。


「か、おる……っ」

「大丈夫だからね。翔ちゃんのデートは僕が行ってきてあげる。ついでに、二人の仲も壊してきてあげるね?」


那月さんには悪いけど、二人の仲は引き裂かせてもらうよ。


「悪い、遅くなった!」

「いいえ。それじゃあ行きましょうか?」

「ああ」


翔ちゃんの口調はずっと一緒にいたから真似出来る。
このまま気付かれないでデートすることは可能だろう。


「そういえば翔ちゃん、少し背が伸びましたか?」

「え?」


そうか、翔ちゃん僕より少し小さいから……
さすがに身長までは気が回らなかった。
というか、身長は僕の方が高いんだからどうすることも出来ないか。


「俺だって成長期くらいある」

「成長期って1日でこんなに伸びるものなんですねぇ……あ、今日はどこに行きたいですか?」


背の話からいきなり今日の話に変わった。
背と何も関係ない話をいきなりするの!?
しかも、行き先決めてないし。
普通那月さんが翔ちゃんをリードしてあげなきゃいけないんじゃないの?
人生初めてのデートなんだよ?
分かってるの?
……いやいやいや、落ち着け来栖薫。
今は翔ちゃんになりきることに集中しよう。
余計なことを考えて作戦が失敗するのだけは避けなくては。


「……俺が決めていいのか?」

「はい。初デートは翔ちゃんの行きたいところに行きたいんです」

「じゃあ……」


僕が選んだのは、映画だった。
映画館なら中は暗いからそんなに僕を見ないからばれる心配が少ない。


「わぁ〜映画楽しみです〜」

「ははは」


ほわほわしている那月さんは楽しそうだ。
僕は正直疲れた。
映画に行くって言ってるのに、くまのぬいぐるみを見つけたらふらふら行っちゃうし、唐突に話が変わるしで気疲れが尋常じゃない。
よく翔ちゃんはこんな人と付き合おうなんて思えたね。
マイペース過ぎて、別れを切り出す暇がない。
翔ちゃんが目を覚ます前にすべてを終わらせるつもりだったのに……
僕は那月さんのペースにすっかり呑み込まれて、見たくもない映画を一緒に見る羽目になった。











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