真理を追究する者

□ドタバタの側で1
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『何を言う。ルルカは家族だ。大切な、たった一人の兄妹だ』


……ああ、また間違えたみたいだ。

ルルカという子は、一緒に暮らしてくれる、傍にいてくれる、大切な家族。

それを持ったことのない私には、理解できないけど。

失って悲しいとか、困ると思える人なんて、私にはいないから。


…………。


それにしてもこの子、人間の方を妹と思ってるのね。なかなかいっちょ前なこと。


『あっ!』


突然、犬は私の手をすり抜け、走って行ってしまった。

魔法が維持できなくなり、彼の声は届かなくなる。

走る先には――小さな女の子が。

ちょうど家から出てきたところで、気づいてこちらを振り返る。


「ルーカス!」


女の子は、おそらく犬の名前を呼んで、胸に抱きしめた。


「よかった!ずっと探してたんだよ!」


嬉しそうによかったと繰り返す女の子に、犬も嬉しそうにほおずりする。

よし、これでミッションコンプリートっと。

長居する気も水を差す気もないし、私はさっさと森に行って木の実を――


「クウン、クウン」


……ん?なんで戻ってきたの?

足にすり寄る犬に、女の子は目を丸くして、


「……ひょっとして、お兄ちゃんが連れてきてくれたの?」


お兄ちゃんと言われてしまった。フードをかぶってるから仕方ないとはいえ。

女の子の声を聞きつけたのか、家から男女が出てきた。


「どうしたルルカ。……あ!ルーカスが見つかったのか!」

「よかったわねルルカ。……あら?そちらの方は?」


犬が執拗にじゃれてくるのを抱き上げる。

眼除けの呪文は、術のかかっていない者からのアプローチを受けると簡単に解けてしまうのだ。

面倒くさいけど、渋々事情を伝える。


「そうだったんですか……野犬に襲われていたところを、この子が……」

「君もルーカスも、怪我がなくて本当によかったよ。お礼と言っちゃなんだけど、ここにあるものを一つだけ持って行ってくれないか」


突然の申し出に、私は軽く手を振る。


「いえ、私はむしろこの子に助けてもらった方で……」

「怪我がないってことは、最終的には君が追い払ってくれたってことだろう?だったらお礼なんてこっちからするもんだ」

「さあさ、入って入って。ついでにお茶でもしていってくださいな。旅のお話とか聞けたら嬉しいわ」

「わーい!お菓子お兄ちゃんと一緒に食べる!」


お菓子……食べれるといいけど……。

まあちょうどお腹がすいてたし、ご相伴にあずかれるならいいか。

ぐいぐい引かれて押されて入った家は……あれ、ここは……。

…………。

ほほう、これはこれは……。
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