真理を追究する者

□ドタバタの側で2
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この本は私の魔力と反応して、魔力同士で磁石のようにくっつく。

こういう時はとても便利。何せ両手が使えるし、いちいちリュックに詰めなくてもいいから。

アレになって収穫してもいいんだけど、魔力は極力消費したくない。疲れるし。

確かこれ、中の種はすりつぶしてレモン水と飲めば風邪予防になる。

ちょっとでも衝撃加えたら破裂する実だけど。しかも臭い。

この枝太いな。慎重に、慎重に……


「あのですねえ」


!?


背後からの声に、私は驚いて手を滑らせる。

枝がぽっきり折れ、実が真下に落下していく。

同時に私の体も傾くが、何とか木にしがみついて難を逃れた。

ああ、実が破裂して粉々に……。


『…………』


私は彼と顔を見合わせ、


「……今、わかってて声かけた?」

「えっと……いいえ」


口元を引きつらせる彼。

いつもなら降りてくるまで下で待機してるはずだけど。

……まあ、過失がないならいいか。


「ねえ、散らかした実と種取ってきて。ついでに洗ってきて」

「ええ?……あれってその、中身が臭いんじゃ」

「うん。だから洗ってきて。悪いと思ってるんだったら」


たぶんこの人は悪いと思ってるんじゃなくて、雑用を押し付けられるのが嫌なだけだと思うけど。

目を泳がせる彼に袋を何枚か手渡すと、諦めたようにスーッと下に降りていった。

他に実は……あるけど、熟してない。破裂寸前が一番栄養あるから、収穫はやめておこう。


その時、再び水しぶきの音がした。

あ、ここから湖見えるんだ。

リナたちの乗った船も……リナはさすがに遠くて見えないな。

眼鏡を外して目を凝らしたら見えるだろうけど、無駄に魔力を消費したくない。それに目が乾いて痛くなるし。


…………。


魔眼……か。

この目は無条件に周りを怖がらせるし、特別な力を持っている。

でも本物の魔眼とは違って厄災を運んだり、ましてや魔王の力が宿っているわけでもない。

彼の言う通り、教えても別に私は困らない。リナの前で使ったのも同じ理由。

……まあ、この瞳を説明しない一番の理由は――


「――ノウンさん」


今度は驚かせないようにするためか、目の前に現れる彼。


「ありがとう」


袋の中と匂いを確かめていると、彼が私の横に腰かけた。


「ノウンさん、案外神経が細いですよね」

「そういう時もあるよ。特に雑に扱ったら大惨事になりそうなものは」

「普段もそれくらい気を張り詰めていてほしいものです」


顔を上げると同時に、彼は私が落としたナイフを目の前に差し出した。


――刃先を、私に向けた状態で。


「わかっていますよね?僕は――魔族、なんですよ?」


…………。


彼の切れ長の、闇色の目を見つめたまま、私はひょいとナイフをつまみ上げる。


「いちいち指図受けなくてもわかってる。神経細いのはゼロスの方」

「でしたら――」

「さてと――緩衝(スロウ)


ぴょんっと飛び降り、魔法陣をくぐってゆっくり落ちた。

うっ……臭いがまだ残ってる。実の落下地点踏んでないよね?


「今度は西側を行ってみようか」


言いながら、彼の気配を感じながら――私は、魔族に背中を向けたまま歩きだす。

ピリピリする理由も、わからないわけじゃないけど……まあ、放っとこうか。
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