真理を追究する者
□大賑わいののど自慢大会!?
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※最初に言っておきます。
不快に思った方――ごめんなさい
魔族への対抗策としてクレアバイブルの写本を探すあたしたち。
その道中で立ち寄った町では、年に一度ののど自慢大会が開かれていた。
「本当なんでしょうか、あの噂」
「まあ、確かめる価値はあると思ったから来たんだけどね」
呟き仰ぎ見る先には、たくさんのギャラリーが見つめる舞台上。
こののど自慢大会……というより、あのマイクは。
史実によると百年以上前からある由緒正しいものらしく、どうやらクレアバイブルの写本に従って創られたものらしい。
なんでも、手にした者の思い描いたメロディを具現化することができ、どんな複雑な音楽も、何ならこの世界にない音まで自在に出すことができるそうだ。
「この世界にない音って何でしょうね?」
「さあな。もしかしたら異世界にはこの世界にはない音、あるいは楽器があるのかもしれん」
アメリアとゼルが話すのを片耳で聞きながら……あたしは心の中で嘆息。
こーれは……アテが外れたかもね。
クレアバイブルが関わってるんだし、どんな御大層なシロモノかと思って期待して来たはいーものの。
見る限り、噂以上の力はなさそう。てゆーか今歌ってるやつが下手過ぎてよくわからん。
はっきりと曲をイメージしないとああなるってお手本みたいな音が流れてきて、周りの客は歌い手を笑ったり煽ったり、様々に楽しんでいる様子。
まーあたしたちとしては、ここで回れ右してさっさと次の手掛かりを探しに行ってもいーんだけど……ね。
ちらり、と振り返った看板の内容。
『エントリー自由!旅の方も飛び入り参加OK!優勝者には金貨1000枚贈呈!』
なんとも太っ腹なことが書かれた看板に、思わず口の端が上がる。
くくぅっ!金貨1000枚だとぅ!?これを逃して何とするっ!
とゆーわけで、意気揚々とエントリーシートに名前を書くあたしたち。
金の亡者?あたし以外の参加者もどーせそーなんだから言いっこなしよ!
ちなみに今回の出場者は過去最多とのことで、2日間にわたって行われているらしい。
「あ、マルチナさんも参加するんですか?」
「ふっ、わたくしにかかれば優勝なんて目じゃありませんわ。ここで優勝してゼロス様にわたくしの魅力を見せつけて、そのうえでにっくきリナを下して見せますわ!!」
「あー、はいはい」
びしぃ!と指を突き付け、マルチナが声高に宣戦布告を仕掛けてくる。
どーでもいいけど……その元気とか活力って、もーちょっと他に使えないのかしらね?
見ないうちにノウンとすっかり仲良くなってるみたいだし……
いや、ノウンは単にマルチナの話に付き合ってるだけか。無表情のままだし、何の感慨もなさそうだし。
「アメリアも行くのか?」
「はい!私も愛と正義の讃美歌を披露します!」
「……変な歌だったら票が集まりにくいんじゃないか?」
「さ、最初っから変な歌って決めつけないでくださいよぅ」
ゼルの言葉にショックを受ける彼女は――ふと、会場をじっと見つめる人影に気が付いた。
「ノウンさんも?」
「それはありませんよ。ノウンさんは目立つ行動は嫌いですので」
返事をしないノウンに代わり、ゼロスがアメリアに答える。
「…………」
視線の先をたどっても、ただ出場者が気持ちよく歌っているのが見えるだけ。
「どうしたのよ?本当に」
あたしの声に気が付いたノウンは、
「…………」
考えるような、もじもじしているような、そんな微妙なしぐさで口をつぐむのみ。
「……エントリーしたいなら、受付済ませれば――」
あたしが話しかけた矢先――ぱっとノウンの耳をふさぐゼロス。
「……ゼロス?」
「さ、さーて、僕たちは宿を探しに行きましょーか、ノウンさん」
ひきつった笑みを残し、ズルズル相方を引きずり去っていく。
ノウンは無言でゼロスの手にしがみつく。あの体勢だと痛いんだな、首が。
「どうしたんでしょうか?」
「さあ……」
出場させたくないっていうのは伝わったけど……やー、まさか、ね。