真理を追究する者
□闘いのアルテメ塔!
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「――昔、この地に人目を忍んで暮らす天涯孤独の青年がいました。
男の名前はジョー。
彼は人間を嫌い、人里離れた廃屋の塔で、人形をお供にひっそりと暮らしていました。
これは、そんな男が村の娘アンに恋心を抱いたがために起こった、悲劇なのです――」
食事が運ばれる前のテーブルの上には、ろうそくが一本だけ。
あたしたちの顔を照らすには十分な、しかし食堂を照らすには心もとない明りの中で、彼の声だけが煌々と響く。
「人と心を通わす術を知らない彼は、ただひたすらに念じ続けました。
アンと一緒に暮らしたい、一生自分だけのものにできたらどんなに幸せか、と――
それから数日後、男の望みは現実となりました……アンが忽然と姿を消したのです」
こくり、と喉を鳴らしたのは、誰だったのか。
「ある日、アンを連れ戻そうとした村の人々がジョーの住む塔を訪れました。
そこで人々が見たものは――助けを求めるようにひとりでに動く少女の人形だったのです!」
「きゃああああぁぁぁああ!!」
劇画チックな表情で叫ぶアメリアは、
「こわい!」
ノウンを殴り、
「こわい!」
ガウリイを蹴飛ばし、
「こわ〜い〜〜!!」
あたしにしがみつ……いや、首を絞める!
「ちょっとアメリア、あくまでも言い伝えよ言い伝え!落ち着きなさいってば!!」
床に沈むノウンの横で、ゼルは半目でマグカップを傾けるだけ。
とある宿の食堂にて、あたしたちはゼロスがもってきた言い伝えとやらを聞いていた。
とぼけた顔で起き上がったガウリイが一言。
「で、どういうことなんだ?今の話」
「いちいちあたしに聞くな!」
同じく話を聞いていたマルチナがノウンを引っぱり起こす。
「男の念が一種の呪いとなって、娘の魂を人形に封印したのね……なんて美しい話!」
「恐ろしい話でしょ!」
「ふん!この程度の話でビビるなんて、まだまだお子様ね!」
「なんですって!?」
憤慨するアメリアだが、マルチナに勝ち誇った笑みを返して、
「そういうあなたこそ、まだまだ子供ですね!その足は何ですか!?」
ガクガクカクカク震える足を指さした。
ノウンはというと、言い伝えにも殴られたことにもただただ反応なく、ぼんやりと言い争う二人を見上げるだけ。
「ゔっ……い、いや、これは……ほっときなさいよ!」
「そーはいきません!」
「まあまあ二人とも」
口論を止めるゼロス。
「何故一介の青年に、人間の魂を人形に封印するなんてまねができたと思います?男の持つ人形の布地の中に、クレアバイブルの写本が縫い込めてあったとしたら?」
はっとするあたしたちに続き、ゼルがカップを置いて呟いた。
「確かに、写本に宿る魔力が男の情念に共鳴したと考えることはできる……しかし、出まかせじゃないだろうな?」
「それと」
パンパン本についた埃を払うノウン。
「言い伝えが本当だったとしても、それが魔族に有効とは限らない。今の話を聞いても、人形フェチの男がマニアックな趣味に走った話にしか聞こえなかった」
「そーゆー思考に走るあんたがおかしいだけよ……てゆーか、フェチってあんた」
遮るように、ゼロスが言葉を発する。
「ま……それは行ってみればわかりますよ。男が住んでいたとされる伝説の塔、呪われたアルテメ塔へ――」
窓から望める、崖の上の塔を仰ぎ見て。
…………。
こいつとノウンの間に何があったのか、あたしは知らない。
のど自慢大会が終わったころから、ずっとゼロスはノウンを遠巻きにしているというか……でも監視しなくちゃいけないから離れられないって感じで。
ノウンは……まあ、いつもののーてんきぶりを発揮して、ちょっかいかけたり変な薬作ったり。
それをたしなめる(叩きのめす)のはもっぱらあたしたちで、ゼロスは迷惑そうに眺めながらも声をかけようとすらしない。
どーしたんだかいったい。この前まであんなに仲良かったのに。
セイルーンの時はノウンの方がゼロスを遠巻きにしてたし、せわしない奴ら。