真理を追究する者
□根性の剛速球!
1ページ/8ページ
――ブラス・ラケッツ。
太古に全国各地で流行ったバトルゲームの一種。
ネットを挟んで二組に分かれ、魔力ラケットでボールを打ち合う競技のこと。
打ったボールは魔球となり、相手選手に襲い掛かる。
体力と気力の限りを尽くして戦う競技。
なお、ブラス・ラケッツは魔球を用いた格闘球技である。
ボールを相手のコートにバウンドさせ、一人ノックダウンをさせればOK。
世界博物学大百科より。
――とある飯屋さんにて、あたしは妙なおっちゃんに声をかけられた。
あたしのこんぢょーとやらを見込んだとのことで、一緒にブラス・ラケッツとかいうのに出ないかと誘われたのだ。
どーせくだんないし、あたしはパスパス。
「優勝カップにはクレアバイブルのことが書かれているそうですよ」
「クレアバイブル!?」
百科事典を読むゼロスの言葉に、ゼルが大いに食いついた。
おっちゃんに掴みかかり、前後に揺さぶる。
「リナが出ないなら俺が出るぞ!いいんだろ!?」
「ああそれは無理です」
即座にゼルの言葉を否定するゼロス。
「ブラス・ラケッツは基本的に、男女ペアとあります」
「…………っ!」
石化するゼル……が、何やら机の隅で化粧道具をパフパフし始めた。
ノウンがそれを追いかけ横から指導する。
この子のきょーみが今度はどの角度にねじ曲がっていったのか。
「ノウンさん、お化粧したことあるんですか?」
「一通りのやり方なら、ゼラちゃんやダルちゃんから教えてもらったから」
「誰ですか?それ」
「……うーんと、時々会う人」
問答の隣で、おっちゃんに付きまとわれるあたし。
「た、頼む、わしと一緒にブラス・ラケッツを!」
「どーでもいーけど、なんであたしなのよ?」
抗議するあたしにも、おっちゃんはまっすぐな目で、
「――根性だ!」
「え、こんじょー?」
「よいか、勝負を制するのは根性だ!先ほどお主が肉団子の最後の一個を手にした時、わしははっきりと確信した!相手が苦しい時は自分も苦しい。だが苦しさを乗り越えた者こそが、真の勝利を掴むことができる!その力が『根性』なのだ!!!」
ピシャ――――ン!!
背後に雷鳴とどろかせ、おっちゃんはこぶしを振り上げた!
……こんぢょー論もここまでくると、一種の病気なんじゃなかろーか。
と。
「――まだそのような時代遅れの戯言を言っているのですか」
突然朗々とした声が響き渡り、同時に魔力球が撃ち込まれる!
がしゃああああああん!!
それは食堂を易々と吹き飛ばし、営業妨害という言葉が裸足で逃げだすほどに店をボロボロにした!
――そして、高飛車な笑い!
「そう、この大会で優勝するのはこの私!」
――マルチナ!
「キース!いったい何の真似だ!」
おっちゃんはあいつの隣に佇む男に鋭い視線を向ける。
「知れたことです。この性根のひねくれ曲がった、まさに私の求める素質を持つ素晴らしいパートナー・マルチナ嬢と組み、優勝を狙います」
「何っ!?」
あいついつの間にあんな嫌味な男と組んでんのよ。
性根がひねくれ曲がり切ってるのは心中で頷いておく。
「ちょっと引っかかるところはあるけど……私はキース様を信じて、技を磨きましたの」
「そう、ブラス・ラケッツは『競技』なのですよ。競技とは読んで字のごとく技を競うもの。技術の発展と向上無しに勝利はあり得ません。時代遅れの根性論で我々に勝てるとでも?」
「黙れぃ!お前のは相手の裏をかく小手先の技術論だ!男だったら正々堂々勝負をせんか!」
「相手の裏をかくことも立派な戦術です。要は勝てばよいのです」
「その通りですわ。そしてキース様と私が組めば、勝ったも同然!あなたに勝ち目はありません事よ……リナ=インバース!」