真理を追究する者

□復讐と、邂逅と、葛藤と
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――べちゃっ!


音の方向を振り返る。

そこにはノウンが――両腕で本を抱えているために顔から地面にぶつかっていた。


「大丈夫ですか?」

「お前、何回躓いてるんだ」

「痛い……」


そしていつもと同じく、マルチナとアメリアに介抱されながら起き上がる。


――10回目……。


無意識に数えていた数字が、二桁に達した。

ちなみに、これは今日こけた回数である。

いつもより格段にひどい。


「どうしたんですか?またゼロスさんに何か言われたとか……」

「『また』って……僕は何もしてませんよ」

「じゃあ何もしてないからじゃないですか?」

「え……」

「というか、ノウンは受け身の取り方練習した方がいいんじゃないか?」

「ガウリイさんが真面目なことを!」


……まあ、魔法で吹っ飛ばしてもほとんど無傷で戻ってくるこいつの事だから、常に強化の魔術使ってるんだろーけど。

心配するのも無駄だし……あたしは無言で視線を上に向けた。


――空には、2羽の鳥が仲良さそうに並んで飛んでいる。








なんてことはない。

ちらちら見ていたけど、単に鳥や蝶が飛ぶたびにそれらをじっと見つめているだけ。

自然と視線が上を向き――結果、足元が疎かになって小石に蹴躓く。


「ノウンさんって、動物好きなんですか?」


歩き詰めで疲れたのか、さっさと横になって眠ってしまったノウンを眺めながら。

アメリアが焚火の調節をするゼロスに話しかけた。


「そうなんですかね?」


一方のこいつは、簡単に答えて終わる。


「長年一緒にいるならわかるでしょーが、それくらいは」

「そんなこと言われましても。まあ、穴が開くほど見つめるくらいなんですから、好きなんじゃないですか?自分は動物に嫌われる体質なのに」

「よけーなこと言わんでいい」


ジト目で睨んだあたしに、頭をかいて笑うゼロスくん。


その時――ガサガサッと物音。

続いて、鳴き声と小さな羽音が聞こえてきた。

なんだ、また鳥か……。


「――ああ、そういえば」


不意に、ゼロスが思い出したかのように口を開く。


「『人は空を飛ぶ鳥を見ると、旅に出たくなる』……らしいです」

「……ああそれ、前にノウンが言ってたっけ」


あのお姫様……って言っていいのかわからんけど、あの子にしてたアドバイス。


「誰かの名言ですか?」

「さあ……大方、自由に飛びまわってるように見える鳥を見て、羨ましいって思った人が言っていたことなんでしょう」

「ノウン自身がそう考えたわけではないんですのね」


マルチナの相槌。

時たまノウンっておセンチというか、詩人みたいなこと言う時あるわよね。


「でもそれ、俺はなんとなくわかるかも。ノウンもそう思って旅を始めたのか?」

「いえ……まあ、きっかけは僕が彼女を連れ出したからなんですけどね」

「連れ出した?」


聞いて、なぜかマルチナが顔を曇らせる。


「ええ。前に言いましたよね。『彼女は崇められて育った』と。その村から、彼女を開放してさし上げたんです」

「なんでまた」


問いかけに、彼はノウンが食べる予定だったものと思しき果物を手に取る。


「世界を正確に定義した暁に、彼女が『救世主』として世界を救おうと考えるのか……僕にはそれが興味深かったんです。……しかし、肝心のノウンさんが何年経ってもこの調子で」


ゼロスのため息が別の世界の人の事のようにスカスカ寝息を立てるノウン。

魔族が目の前にいようが誰かがピンチになろうが、関係ないと無視するスタンスは昔からってことね。


「ノウンさんの生まれ故郷ですか……どんなところなんですか?」

「うーん、なんと言えばいいのか……まあとにかく、酷いところでしたね」

「酷いって、ノウンさんに対してですか?」


わざわざハンカチを取り出して木の実を拭くゼロスくん。
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