真理を追究する者

□思惑の向く先に!
1ページ/11ページ





お昼に立ち寄った飯屋にて、


「あーあ……クレアバイブルを探して旅を続けてきたのはいーけど……」


あたしはイラつき任せにガンッッ!とテーブルを叩いた。


「どーしてこーもまともな写本が出てこないのよ!」


高位魔族に対抗する術を求めて歩き回ってるあたしたちだけど。

見つかったのといえば、変なダンスの踊り方だとか、ウソ発見器だとか、名前が似てるだけとか!


「役に立たないものばっかりでしたね」

「唯一役に立ちそうだったマイクも、ノウンが木っ端みじんにしちゃうし」


言われたノウンは、日差しが気持ちいいのかぷわぷわ舟をこいでいる。

ちなみにマルチナはどこに行ったのか、姿が見えない。


「あぁぁ、いったいどっかにまともな写本って存在しないのかしら!」

「それか、いっそのことクレアバイブルの本体か……だな」


イラだってるのは同じらしく、ため息交じりに呟くゼル。


「そんな簡単に見つかるもんでもないだろ?」

「結局はそうなんだけどね……ガウリイに言われるとなおさらがっくりくるわ」

「そっか?」


ケロッとした声色に、ため息とともに机に沈むあたし。

が。


「――ないこともないですけど……」


聞こえた声に、全員で振り返る。

そこにいたゼロスは、視線で問うあたしたちに、何やら迷っているような間を開けつつ、


「いえ、その……まともな写本というか、『クレアバイブルの完全なる写本』なら……そこの山の神殿に」


……………………。


――すぐさまゼルがゼロスに掴みかかる。


「貴様よくも今の今まで!」

「そうよ!」


ごめしっ!


その横から、あたしもにこやかプリーストに肘を入れる。

その拍子にノウンの椅子がひっくり返るが、かまわずに、


「なんでそーゆーこと早く言わないの!」

「み、皆さんの役には立たないと思ったものですから……!」

「どゆこと!どゆこと!」

「それがですね――」


――その時。

ぐわばっ!と起き上がった人影に、思わず動きを止めるあたしたち。

あまりの勢いに――先日の奇行のこともあったし――視線が集まる中、ノウンは首をヘンな方向に曲げつつ、


「……оh勇者よ、キレてしまうとは情けなひ。今夜はみんなでザギンのシースーでパーリナイッ」

「寝ぼけてんじゃないわよ爆裂陣(メガ・ブランド)!!


どばごめごぉぉぉぉぉ!!










ゼロスを先頭にして、あたしたちは切り立った山道を歩く。

こいつはなおも「役に立たないとは思いますけどね……」とぶつくさ呟いてはいるが、無視してきびきび歩かせている。

余談だが、首をあらぬ方向に曲げたままのノウンも知らなかったらしい。


「ノウンさんに教えるわけないじゃないですか。うっかり悪用とかされたらたまったものじゃありませんし」

「うんうん」


わかってるのかわかってないのか、眠そうに目をこするノウン。

『知らない知識がある!よっしゃレッツトライ☆』感覚で禁術あっさり使ったり変な薬作ったりするからか。

そのうち、ふもとの村からも見えなかった神殿が見えてきて。


「……あれ、ノウンさん?」


ふいにあがったアメリアの声に、全員が立ち止まった。

呼ばれたノウンは、その場に立ちすくんでいるのみ。

近づいてみると、何やらぶつぶつ呟いているのか聞こえた。


「……何……私……行く……違う……?」


目までどこか遠くを見るように虚空をさまよっている。

……この間の発作がまた出てんのか?あれから全くなかったのに。

よくわからんけど、肩をつかんで大きく揺さぶる。


「ノウン!ノウンってば!!」


大声で呼びかけて、ようやくはっとあたしに気づく。


「どうしたんですか?顔色悪いですよ」

「…………」


ノウンはまんまるに見開いた目をぱちくりとさせ――落ち着いたのか、ゆっくりといつもの表情に戻る。


「……私、この先に行けないみたい」

「へ?なんでよ」

「さあ。聞こうとしたらリナに呼び戻された」


呼び戻……って、魂抜けてたみたいな言い方して。


「誰かから念話を受けてたわけ?誰に何言われたか知らないけど、無視したら?」


素っ気なく返すと、ノウンは困ったような、落ち込んでるような、微妙な表情で眉をハの字にした。


「……もしかしたら、体質が関係してるかも。これから行く先って、特別な写本を保管してる場所らしいし。リナ、ちょっと一回行ってどんな場所か見てきてよ。私待ってるから」

「ええー……」


あたしとともに、ゼロスがわずかに顔をしかめる。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ